「野球選手は体が元手」
ロッテの監督として、すさまじいランニング量をこなした選手たちに「夕飯は1時間かけて食べろ」という“難題”を指示、それを突破した2年目の
弘田澄男を抜擢したことでリーグ優勝、日本一につなげた金田正一については紹介したばかりだ。多くの選手が苦しんだ食事方法だったが、これは金田が現役時代に実践していたものでもあった。
「野球選手は体が元手だから、体にはウンと金をかけた」と金田。食材は新鮮なものを使い、栄養を豊富に摂取することにこだわったという。さらに、「投手の基本は走ること。投手は走ってナンボ」と、シーズン中でも汗だくになるまで走りまくってコンディションを整えていた金田にとって、キャンプでのランニングなどは最低限のことだったはずだ。
ただ、選手として、投手としての金田が自らに課したものは、それだけではない。重視したのは睡眠だ。「休養中は、どんな人が訪ねてきても絶対に会わん」と金田。キャンプにも自分の枕や布団を持ち込んだというから徹底している。さらに、水もミネラルウォーターを持ち込んで、夕食は自分で近くの市場へ行き、最高の食材を購入して鍋を作り、風呂から上がると時間を置かず、チームメートを呼んでワイワイと、ゆっくりと時間をかけて食べた。時間をかけて食事を摂ることは現在の栄養学で推奨されている方法らしいが、現在から半世紀を超える昔の話。もちろん金田の場合は独学だ。
「ピッチャーとして、投げることを中心に生活を組み立てて、それを守っているだけ」と金田。ひとつの成功例に普遍性があるとは限らないが、国鉄(現在の
ヤクルト)と
巨人でプロ野球の頂点に君臨する通算400勝を積み上げた金田にとっては、これらは成功体験のようなものだっただろう。左腕だった金田は左手で重いものは持たず、我が子も左で抱かなかった逸話も残る。こうしたコンディショニングが通算400勝の原動力だったのは確かだが、その礎となったのは、17歳でプロになった金田に「月給は残さんでいい。貯金もしなくていいから全部、食べろ」と言った母親の存在だったという。
文=犬企画マンホール 写真=BBM