苦手だった対左打者を克服
首位を快走する阪神。先発ローテーションの核として投手陣を牽引しているのが青柳晃洋だ。今季11試合登板で6勝2敗、リーグトップの防御率1.96。サイドスローとアンダースローの中間の独特の腕の位置から投げる投球フォームで「クォーターハンダー」の異名も。東京五輪で侍ジャパンのメンバーにも選出された。
2019年の9勝が自己最多。2ケタ勝利の壁が高かった。今季の活躍の要因は「対左打者」にある。右の横手投げは球の出所が見やすいことから、左打者にカモにされやすい傾向がある。青柳も昨季被打率.288と苦手にしていたが、今季は.216と大幅に改善している。
福原忍投手コーチの助言で昨季途中から一塁側プレートを踏むようになると、外角低めに沈むシンカーで左打者を内野ゴロに仕留められるようになった。野球解説者の
藪恵壹氏は週刊ベースボールの誌面で、「左打者へのシンカーの精度が今年は抜群によくなりました。遅いシンカー、速いシンカーを投げ分けているように思います。ここへの制球が安定したことによって、左打者への苦手意識がなくなったのではないでしょうか。もともと右打者には強いので、そのあたりが今年の成績に反映されていると思います」と分析している。
青柳の強みは、この「吸収力」だ。受けたアドバイスを成長の糧にしてレベルアップする。小6のときに横浜市内の軟式野球チーム・寺尾ドルフィンズで当時の平岡昭彦コーチからの助言で現在の投球フォームに。140キロを超える直球にツーシーム、スライダーのコンビネーションでゴロの山を築く。変則投法からの荒れ球は大きな武器になったが、制球難で好不調の波も激しかった。しかし、ここでも福原投手コーチの助言が大きな分岐点となった。青柳は19年に週刊ベースボールでインタビューにこう明かしている。
「(18年の)シーズン終盤での登板で福原さんから『最初から最後まで、打たれてもいい、四球が出てもいいから、最後まで7割の力で投げ続けろ』という指令が出て1試合を任されたんです。そこですごくいい投球ができ『できんじゃん』って自分の中で(笑)。そこから怖さがなくなりましたね」
「今では7割の力が僕の全力になっています。したがって、ここは絶対に点を取られたくないというときには逆に120パーセントの力を出せるようにもなりました」
先輩の
西勇輝にもトレーニング、コンディショニングの重要性、キャッチボールで心掛けることなどを学び、
能見篤史(現
オリックス)の助言も大切にした。19年の秋季練習では臨時コーチを務めた
山本昌からシンカーを伝授され、試行錯誤を重ねた上で大きな武器にした。
不規則登板も苦にせず

変則投法の青柳は東京五輪でも重宝されそうだ
安定感が増した青柳の投球を見ると、2ケタ勝利も通過点になるだろう。16年ぶりのリーグ優勝に向け、さらに白星を上積みしなければいけない。
青柳は「雨男」として知られている。今季も4月17日と5月12日、5月20日と本拠地・甲子園で登板予定だった3度の試合が雨天中止となった。明るい性格と癒し系のキャラクターで、似顔絵グッズ「雨柳さん」のフェイスタオルが発売されて阪神ファンの人気を博している。調整は難しいが、今の青柳だったら不規則な登板間隔でもきっちり抑える。今後も先発陣の中心として1つのアウト、白星を積み重ねていく。
写真=BBM