励ましの意味を込めて

第103回全国高校野球選手権大会東・西東京大会の開会式が7月3日、神宮球場で開催された
高校野球は、球児だけの舞台ではない。
歌が持つ力を、あらためて感じた。
東・西東京大会の開会式が7月3日、神宮球場で行われた。今夏は計271校、257チームが出場。昨年の第102回大会は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止。2年ぶりのオープニングセレモニーとなった。従来はベンチ入り20選手が参加するが、今年は感染症予防対策の観点から各チーム2人(主将、プラカード)が入場行進した。
大会行進曲は、東京消防庁音楽隊の演奏は行われず、東京都高野連が事前に準備した音源が流れた。東京都高野連・武井克時専務理事が「開会宣言」をすると、お馴染みのファンファーレ(音源)が神宮の杜に響いた。いよいよ、夏が来た! と気持ちが引き締まる。
唯一の「生歌」は国家独唱・国家掲揚と大会歌独唱。やはり、ライブ感はたまらない。国立音楽大学附属高校の音楽科に在籍する2人が、素晴らしい歌声を披露している。
2人は開会式後、取材に応じた。国家独唱を担当した長谷川桜愛(3年)さんは「大変、光栄な機会。昨年、大会が中止になってしまって、悲しい思いをしている球児の皆さんにエール、励ましの意味を込めて歌いました」と、背筋を伸ばして語った。そして、裏話をこう明かしてくれた。
「高校1年時にも(学内の)オーディションを受けたんですが、二次の最終で落選してしまったんです。2年生になって『今年こそ、出る!!』と思っていたんですが、大会が中止……。昨年の3年生の思いも受け止めて、頑張って歌わせてもらいました。私としても、『2年越しの思い』で、ここまで来られました。本当に、感謝の思いでいっぱいです」
大会歌『栄冠は君に輝く』を歌った小林未来さん(2年)は「国歌は重量感がありますが、大会歌は球児の皆さんにとっての清涼剤になれるように明るく、さわやかに歌おうと思いました」と、神宮に立てたことを感激した。スタンドから大きな拍手が起こった感想を求められると「生きてて、良かった。歌を学んできて、良かったです」と笑顔で話した。
最も思いを込めた歌詞について聞くと、小林さんは「ほほ笑む希望、です」と語った。
「球児の皆さんの笑顔を、思い浮かべました。練習してきた成果を発揮し、自分の力を信じて、頑張ってもらいたいと思います」
神宮で実際に聞けたのは、各チーム2人だったが、テレビ中継などを通じて見た野球部員たちにも、熱きメッセージが届いたに違いない。この日、東京は朝まで悪天候だったが、開会式前には雨が止んだ。
夏の主役は言うまでもなく、高校球児である。だが、多くの関係者の尽力で、大会運営は成り立っている。この日の開会式も先導役、司会ほか、女子生徒に活躍の場があった。試合は大会役員、審判員のサポートがあって、進行していく。歌を通じて開会式に参加した2人とっても一生、忘れない夏となったはずだ。
文=岡本朋祐 写真=山口高明