新人が大豊作の2021年
今年の新人は大豊作と言ってよいだろう。セ・リーグは阪神の
佐藤輝明、
伊藤将司、
中野拓夢、広島の
栗林良吏、
森浦大輔、
大道温貴、
DeNAの
牧秀悟がチームに不可欠な戦力に。パリーグに目を移すと、
楽天の
早川隆久、
ロッテの
鈴木昭汰、
西武のドラフト4位の
若林楽人、
日本ハムの
伊藤大海、
五十幡亮汰が頭角を現している。若林はリーグトップの20盗塁とリードオフマンとして活躍していたが、5月30日の阪神戦(メットライフドーム)で中堅の守備で打球処理した際に左ヒザを負傷。病院で検査を受けたところ、「左ヒザ前十字靱帯損傷」の診断を受けた。長期離脱を余儀なくされたのは残念な限りだ。五十幡も6月8日の阪神戦(札幌ドーム)で負傷交代し、左太もも裏の肉離れと診断され離脱。7月10日にファームで実戦復帰したばかりだ。
新人王は記者投票で選出される。日本新聞協会の運動記者クラブに加盟する新聞社、通信社、放送局で5年以上取材経験のあるプロ野球担当記者に投票の権利があるが、記者歴15年のスポーツ紙記者は「最後まで悩むと思います」と漏らした。「セ・リーグは阪神・佐藤輝明の活躍のインパクトが強いですが、広島・栗林の守護神としての安定感も群を抜いています。2人がこのまま活躍し続ける可能性は十分にあるし、どちらを選ぶか迷いますね。票が割れると思います」。
規格外の活躍で球界の注目を一身に浴びているのが阪神のドラフト1位ルーキー・佐藤輝だ。前半戦終了時点で打率.267、20本塁打、52打点。魅力は日本人離れしたパワーだ。4月9日のDeNA戦(横浜)で
国吉佑樹(現ロッテ)のスライダーに反応して横浜スタジアムの右中間に場外アーチを放つと、14日の広島戦(甲子園)で
森下暢仁のカーブに泳ぎながらも右中間に運ぶ甲子園初アーチ。開幕して2週間は1割台に低迷していた打率も上昇。弱点とされていた内角高めの直球に対応できるようになり、ボール球を見極めてストライクを確実にはじき返すことでヒットゾーンが広がった。
阪神OBで野球評論家の
岡田彰布氏は週刊ベースボールのコラムで、「夢のある……といえば、やっぱりルーキーのバッティングよ。佐藤輝明が着実にホームラン数、打点を積み上げている。その佐藤輝だが、ここにきて、バッティングに大きな変化が生まれている。それはまずストライク、ボールの見極めができるようになった点である。さらに変化球への対応よ。今は変化球をホームランにできる確率を高めている。これがさらなる期待感を生む。開幕からインコースを徹底的に攻められて、苦しんだけど、そこを見極めることができるようになり、相手バッテリーは、変化球を多投するようになった。ルーキーはこれに慣れて、対応できるようになった。こうなれば相手は厳しい。打席では佐藤輝のペースで勝負できるようになった。だから今後、ホームランは飛躍的に伸びていく。オレにはそう見えているな」と称賛している。
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新人離れした打撃を見せる阪神・佐藤輝
5月28日の西武戦(メットライフ)では2回に西武のエース・
高橋光成のフォークに泳がされながらも片手1本でバックスクリーンへ11号ソロを放つと、6回に再び高橋から左中間へ12号ソロ。同点の9回に右中間最深部へ勝ち越しの13号決勝3ランで締めくくった。セ・リーグ新人で1試合3本塁打は1958年の
長嶋茂雄(
巨人)以来63年ぶりの快挙だった。相手バッテリーのマークが厳しくなる中、6月も月間打率.284、6本塁打、10打点と結果を残している。しかし、7月は月間打率.227、1本塁打、4打点。五輪ブレークをうまく生かして、後半戦へとつなげたい。
「近い目標をこなしていって」
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安定感抜群の投球で抑えを務める広島・栗林
この佐藤に決して負けていない輝きを放っているのが広島のドラフト1位・栗林だ。1年目で守護神に抜擢されると、抜群の安定感で失点を許さない。開幕から22試合連続無失点の球団新記録を達成し、前半戦終了時点で18セーブをマーク。33回2/3で13安打、被打率.123と投球内容も安定している。首脳陣が安心して最後を託せる存在で、東京五輪メンバー入りも果たし、金メダルへの快投も期待される。
栗林は週刊ベースボールのインタビューで新人王争いについて、「牧君とか佐藤君は特に意識しないですけど、どちらかと言うと社会人から入った伊藤将司とか、中野のほうが気になりますし、対戦するときも意識します。将司はもう3勝していますし(取材時)、中野もバッティングの状態がいいので、対戦したときには抑えたいなと思います」とコメント。昨年の森下暢仁に続く2年連続新人王に向けて広島ファンの期待が高まっていることについて、「やっぱり新人にとって一番うれしい賞だと思うので、新人王はもちろん獲りたいなって思います。ただ、そのためにも、その前にやらなきゃいけないことがいっぱいある。新人王という遠い目標を見るんじゃなくて、近い目標をしっかりこなしていって、1年間終わったあとに、新人王を獲れた、という形になればいいかなと思います」と表情を引き締めていた。
シーズンは長い。まだペナントレースは折り返しに入ったが、佐藤輝と栗林は今後もさらなる活躍の可能性を十分に秘めている。牧、伊藤将、中野を含めて熾烈な新人王争いが繰り広げられそうだ。
写真=BBM