問われたオールスターの存在意義

カブレラに対してストレートを“予告”した藤川
ペナントレースで活躍している選手たちの共演であるオールスター。試合の勝敗は出場する選手たちが所属するチームの優勝には影響がないから、見方を変えれば、スター選手たちがチームを引っ張る重圧から解放される“真夏の夜の夢”なのかもしれない。プロの野球選手が真剣に野球を楽しんでいる姿を、ファンが楽しむ。投手と打者の個と個の対決は、最大の見どころのひとつといえるだろう。
これが“未遂”に終わったのが1996年の第2戦(東京ドーム)での“対決”だった。9回表二死から、打席にはセ・リーグの
松井秀喜(
巨人)。ここでパ・リーグの
仰木彬監督(
オリックス)はマウンドに外野手の
イチロー(オリックス)を送った。甲子園には投手として出場したイチローだが、プロでは登板の経験はない。そんな球界を引っ張るヒットメーカーと長距離砲の対決だったが、セ・リーグの
野村克也監督は松井に代打を送る。物議をかもした球宴での1シーンだが、「ペナントレースでは絶対に見られない“夢の対決”もオールスターの醍醐味」と考える仰木監督と、オールスターを「スター選手が真剣勝負をする舞台」と考える野村監督の、野球観の対決でもあった。

藤川はカブレラへオール直球勝負で空振り三振に仕留めた
時は流れて21世紀。交流戦が2年目を迎え、オールスターの存在意義が問われ始めた2006年に、「ペナントレースでは絶対に見られないスター選手の真剣勝負」が実現する。第1戦(神宮)の9回裏、セ・リーグのマウンドには
藤川球児(
阪神)がいた。150キロ超の“火の玉ストレート”で鳴らしたリリーバーは、マウンドでボールの握りを打席のカブレラ(
西武)に示す。その握りはストレートだった。藤川は伝家の宝刀で勝負することを“予告”したのだ。

小笠原に対してもすべてストレートで空振り三振に仕留め、帽子を取って頭を下げてマウンドを降りた
カブレラはフルスイングの空振り三振。続く
小笠原道大(
日本ハム)もフルスイングが持ち味の強打者だったが、その小笠原にも伝家の宝刀を“予告”した藤川に、小笠原も同じく伝家の宝刀で応えた。1球ごとに勝負は熱を帯びていったが、藤川にも小笠原にも笑顔がこぼれる。そして全10球、結果は空振り三振。藤川は帽子を取って礼を尽くして、ここでマウンドを降りた。
文=犬企画マンホール 写真=BBM