前半で18本塁打の四番

後半戦も杉本が四番として結果を出すことが優勝への必須条件だ
勝負の後半戦を控えたエキシビションマッチ期間中に
中嶋聡監督はこう口にした。
「フル(シーズン)で出たことのない選手が多く、そういうこともあるが、どうにか(状態が)上がってきてくれたら」
投打とも中心を担うのは20代。日本代表にも名を連ねたエースの
山本由伸、三番打者として打線の軸を担う
吉田正尚を筆頭に若い面々が前半戦・首位ターンを支えた。1996年以来、25年ぶりとなる悲願の優勝も、彼ら若手の奮起が欠かせない。ポイントを絞れば3つのカギが浮かび上がる。
まずは攻撃面。首位打者・吉田正尚を擁しながらも得点力不足を揶揄された打線は、今年5月に
福田周平を一番に据えると好機を多く演出し、つながりを増した。さらに俊足好打の
宗佑磨を二番に固定し、チャンスメーカーが機能したことで、吉田正が55打点を挙げて打線が機能。前半戦だけで昨季の64打点に迫る吉田正の数字が打線のつながりを象徴するが、後ろを打つ
杉本裕太郎の奮起も無関係ではない。
もともとパンチ力は十分だったが、確実性に欠けた背番号99は「今まで気負い過ぎていたというか……。ファウルで良いと思えるようになったんです。ファウルなら、もう1球、チャンスがある」と“脱力打法”で打率.297、18本塁打と奮闘。「ファウルでいい」の意識が右方向への軽打にもつながり、安易に吉田正との勝負を避けられなくなったのも大きい。
福田、宗、杉本。活発な打線を支えた“吉田正の前後”を打つ彼らが後半戦も打線のカギを握るのは、言うまでもないが、冒頭の指揮官の言葉のように、フルシーズンを戦った経験がないのが不安材料。実際に杉本は7月の打率は.146と下降気味に……。ただ、エキシビションマッチ8試合で打率308、3本塁打と復調傾向で後半戦へ。長期低迷となれば得点力に大きな影響を与えるだけに、四番の奮起は必要不可欠だ。
ブルペンを整備できるか

平野の連投回避時の代役クローザーもカギを握る
2つめのカギは投手陣、特に救援陣だ。候補者は多数いるものの、いまだ勝ち継投が定まらない。中でも深刻なのが抑えで、37歳の
平野佳寿の連投回避時の代役クローザー探しに四苦八苦。
張奕、K-鈴木ら中継ぎ登板では150キロ超の直球を連発して好投するも、9回のマウンドに上がると、制球が乱れ、ストライクを取りにいけば痛打を浴びる悪循環。エキシビションマッチでも張奕が8月3日の
阪神戦、同8日の
DeNA戦(いずれも京セラドーム)の9回に失点して勝利を逃している。1つの勝敗が重みを増すシーズン終盤だけに、ブルペンを整備できるかは大きなポイントとなる。
最後のカギは、先発ローテーションだ。山本由伸、
宮城大弥の二本柱が武器も、
山岡泰輔が右ヒジ痛で離脱。大型連敗だけは避けたいだけに空いた枠は、しっかり埋めたい。
候補者筆頭は高卒5年目の
山崎颯一郎で、8月1日の
巨人とのエキシビションマッチ(京セラドーム)では5回途中1失点と好投。190センチの長身から角度のある直球と、タテに大きく割れる
ナックルカーブを織り交ぜる右腕が、後半戦に飛躍を遂げれば大きな力になる。
仮に山本、宮城で試合を落としても、カバーできる布陣を組めるかもポイントだ。新助っ人・
スパークマンの先発ローテ入りの可能性もあるが、『勝利と育成の両立』を掲げる中嶋監督にとっては、生え抜き先発投手の台頭を求めていることだろう。
投打ともにカギを握るのは今季、台頭した新たな力。前半戦はチーム内で育んできた“新鮮力”が勢いを与えただけに、後半戦もその力は必要不可欠。山本、吉田正の投打の軸だけでは勝ち切れないのは、昨季までが物語っているだけに、ワキを固める“新鮮力”が、悲願のリーグVのカギを握っている。
写真=BBM