左腕から技ありの一発
智弁学園(奈良)は日本航空(山梨)との3回戦(8月25日)を7対1で下し、10年ぶりのベスト8進出。左のスラッガーである三番・前川右京は9回に2試合連続本塁打を右中間へ放っている
■8月25日 3回戦
智弁学園7−1日本航空
甲子園の左打席で、貫録たっぷりである。
智弁学園(奈良)が3対1とリードした9回表、一死一塁から三番・前川右京(まえがわ・うきょう、3年)が、肩口から入ったスライダーをたたくと、右翼スタンドへ飛び込む2ランとなった。左腕投手から技ありの一打であった。主砲の一発で勢いに乗り、この回さらに2点を追加。日本航空(山梨)との3回戦を7対1で下し、準々決勝進出を決めている。
前川は横浜(神奈川)との2回戦に続く2試合連続本塁打で、高校通算37号。自身4度目(昨春のセンバツ中止を受け、出場32校が招待された昨年8月の甲子園交流試合を含む)の甲子園を、まるで庭のように躍動している。
前川の甲子園での戦いを振り返ってみる。
【2019年夏(1年)=2回戦敗退】
▼2回戦 8−10八戸学院光星(青森)
[四番・左翼]5打席 5打数2安打3打点
【2020年夏(2年)甲子園交流試合】
▼3−4中京大中京(愛知)
※延長10回タイブレーク
[四番・左翼]4打席 3打数1安打0打点
【2021年春(3年)=準々決勝敗退】
▼1回戦 8−6大阪桐蔭(大阪)
[三番・左翼]5打席 2打数0安打0打点
▼2回戦 5−2
広島新庄(広島)
[三番・左翼]4打席 4打数2安打1打点
▼準々決勝 4−6明豊(大分))
[三番・左翼]5打席 4打数0安打1打点
【2021年夏(3年)=準々決勝進出】
▼1回戦 10−3倉敷商(岡山)
[三番・左翼]5打席 4打数2安打1打点
▼2回戦 5−0横浜(神奈川)
[一番・左翼]5打席 5打数3安打4打点(1本塁打)
▼3回戦 7−1日本航空(山梨)
[三番・左翼]5打席 3打数1安打2打点(1本塁打)
前川は1年夏から四番・左翼で出場。八戸学院光星との初戦(2回戦)で2安打(二塁打1本含む)と鮮烈な甲子園デビューを飾った。
2年夏の甲子園交流試合では、
中日からドラフト1位指名を受けた中京大中京(愛知)の右腕・
高橋宏斗から右前打を放っている。
2年秋の近畿大会で優勝。V候補として乗り込んできた3年春のセンバツは大阪桐蔭との1回戦を制し、勢いに乗るかと思われたが、明豊(大分)との準々決勝で敗退。前川は3試合で10打数2安打と、本来の力を発揮できなかった。
光る大舞台での勝負強さ
迎えた3年夏。打席で風格がある。倉敷商との1回戦で2安打を放っているが、鋭いスイングが印象的だった。横浜との2回戦では通算7試合、甲子園32打席目にして待望の一発をバックスクリーン左へ放り込んでいる。そして、3回戦では試合を決める2ランだ。
智弁学園OBと言えば、
巨人の四番・
岡本和真の活躍が目覚ましいものがある。高校時代に育成してきた小坂将商監督は、かねてから「飛ばす力は、岡本よりもある」と前川のポテンシャルを認めていた。最後の夏にして、先輩をほうふつとさせる飛距離を披露。小坂監督は日本航空との3回戦での2ランについて「変化球を拾ってくれた。(今日は)他の打席では力みがあった。次の試合につながると思う」と語った。
前川は高校通算37本塁打のうち、公式戦でのアーチはこの試合で12本目と、大舞台での勝負強さが光る。177センチ90キロ。趣味は筋トレで握力は左右とも60キロ。ユニフォームがはち切れそうなほど、体を鍛え上げてきた。将来の夢は「プロ野球選手」である。
2006年から母校を指揮する小坂監督は「3つ目の壁を乗り越える、と取り組んできた」と、この3回戦の位置づけを語っていた。智弁学園は右腕エース・
村上頌樹(現
阪神)を擁した16年春のセンバツを制しているが、夏は自身が主将(四番・中堅)だった1995年夏の4強が、同校の最高成績でもある。
悲願の全国制覇まで、あと3つの「壁」を残している。前川とともに、左腕エース・西村王雅と、3回戦で完投した右腕・小畠一心は1年夏から甲子園でプレーしている。主将・
山下陽輔(3年)のリーダーシップのほか、各選手が役割を理解しているのが強みだ。
経験値。選手層。精神力。
21年夏の智弁学園、機は熟したと言える。
文=岡本朋祐 写真=高原由佳