つかみどころがないスタイル

桐光学園高は桐蔭学園高との神奈川県大会準々決勝(9月20日)で勝利(2対1)。エース右腕・針谷隼和は1失点完投した
投手とは、結果的に点を取られなければいい、と言われる。桐光学園高の143キロ右腕エース・針谷隼和(はりがい・はやと、2年)は桐蔭学園高との準々決勝(9月20日)を5安打1失点で完投(2対1)した。2、4回を除いて走者を背負い、6四死球と苦しみながらも、決定打を許さなかった。
奪った三振は、わずかに1個。しっかり要所を締める、針谷の良さはとは何なのか。
早実、早大を卒業後、1984年から桐光学園高を率いる野呂雅之監督は明かす。
「口数も少なく、淡々と、自分の世界を持っている。(現役時代に)後ろで守ったり、(指導者として生徒を)見てきましたが、自分の間(ま)があるんです。特長は何? と言われても、出てこなくて……(苦笑)。独特の間があります」
つかみどころがないスタイルは、ピンチでこそ本領を発揮する。野呂監督は続ける。
「記録に残らない部分ですが、厳しい局面ほど、(タイミングを)ずらせるんです。結果的に良いところへ打たせることができる」
剛速球があるわけではない。持ち球であるカーブ、スライダー、チェンジアップを駆使。プレートから本塁まで18.44メートルの空間を、最大限に活用しているのだ。
同校OBには
松井裕樹(現
楽天)がいるが、2年生エースとして出場した2012年夏の甲子園1回戦(対今治西高)では、大会新記録の22奪三振をマーク。松井にはスライダーというウイニングショットがあったが、針谷にも言葉には表現できない「武器」がある。準々決勝勝利後、針谷は語った。
「結果、1失点。最少失点で抑えることができて良かった。ピンチも、ピンチだとは思っていません。周りの野手から『守るから、どんどん投げてこい!』と声をかけてもらい、力強く腕を振ることができました」
桐光学園高は県4強進出を決めた。9月25日に予定される向上高との準決勝で勝利すれば、来春のセンバツの重要な資料となる関東大会(茨城開催)への出場が決まる。
過去に春1回、夏4回の甲子園へと導いている野呂監督は「先のことは考えられません。(神奈川のメーン会場である)この保土ケ谷球場の空気を3試合経験し、次は4試合目。次戦までの期間で、できなかったことをできるようにする。自信過剰にならず、基本プレーの徹底です」と冷静に語る。極端な話、どんな展開になっても試合が終わった際に、相手よりも1点でも多く取っていればいい。エース・針谷を軸に守りから攻撃へつなげる、桐光野球を貫くだけだ。
文=岡本朋祐 写真=藤井勝治