セは佐藤輝の失速で混戦模様
当初は阪神・佐藤輝がセの新人王争いで抜け出していたが……
各チームともに残り30試合を切り、ペナントレースも大詰めを迎えている。優勝の行方もまだ見えない状況ではあるが、新人王争いも混沌としている(記録はすべて9月27日現在)。
セ・リーグは前半戦大活躍し話題を独占した阪神の
佐藤輝明。後半戦スタートとなった8月13日の
広島戦(京セラドーム)で3安打、17日の
DeNA戦(東京ドーム)では2ホーマーを放ち、新人王レースでもこのまま独走と思われたが、21日の
中日戦(バンテリンドーム)でヒットを放ってからまったく打てなくなった。9月中旬には初の二軍落ちを経験。23日には復帰したが、26日の
巨人戦(東京ドーム)ではセ・リーグの野手としてはワーストとなる50打席連続ノーヒットを記録。これまでの記録は1959年の中日・
吉沢岳男と2016年の同じく中日の
荒木雅博の47打席。日本記録は1993年の
オリックス・トーベの53打席。ルーキーの最多三振に続き、ワーストでも記録を作り、話題作りには欠かせないルーキーではあるが……。
20本塁打にもあと1本と迫っているDeNA・牧
打者で佐藤輝を追っているのはDeNAのルーキー・
牧秀悟。開幕戦からスタメンで起用されると、レギュラーに定着。6月6日の
ロッテ戦(横浜)では2ケタの10号を放った。通常だったらかなり話題になるのだが、佐藤輝の陰に隠れた存在になってしまった。そんな牧が一躍脚光を浴びたのが8月25日の阪神戦(京セラドーム)。ルーキーとしては史上初のサイクル安打を達成(史上70人目、75度目)したのだ。9月には4本塁打を放ち20号に王手をかけている。両者の成績は以下のとおり。
試合 打率 本 点 盗
佐藤輝 109 .246 23 60 5
牧 115 .286 19 62 1
成績だけを比較すれば、どちらに転ぶか分からない。
投手でも有力な選手がいる。ルーキーながら東京オリンピックで2勝3セーブを挙げ金メダルに大きく貢献した広島の
栗林良吏だ。栗林は開幕から22試合連続無失点のルーキー新記録を樹立し、リーグ2位の26セーブをマーク。防御率0.43は5セーブ以上挙げている投手の中ではダントツだ。また現在盗塁トップの阪神の
中野拓夢も規定打席には到達しており、可能性がある選手だ。
パは早川、伊藤にもチャンスあり
連敗を喫するなど9月は失速傾向にあったオリックス・宮城
一方、パ・リーグはオリックスの2年目の
宮城大弥が11勝をマーク。6月9日から8月21日まで6連勝し、防御率も1点台から2点台前半と安定感も抜群だった。しかし疲れが出たのか9月14、24日の
楽天戦(楽天生命パーク、京セラドーム)に連敗し防御率も2.44まで落とした。それに対し即戦力ルーキーの楽天・
早川隆久、
日本ハム・
伊藤大海が9勝と2ケタ勝利に王手をかけた。3人ともにあと3、4試合の登板がありそうだが、この内容次第では形成が逆転する可能性はある。
3人の投手には劣るがオリックスの高卒2年目の
紅林弘太郎も、もし新人王に「打者部門」があれば有力な一人だ。ショートのレギュラーをつかみ取り、9月に入り
吉田正尚が戦線離脱をすると三番を任された。打率はリーグ最下位の.223ではあるが、8本塁打、37打点を挙げている。
87年の阿波野、西崎はともに15勝も……
いずれにせよ、両リーグともに新人王争いはレベルの高い状態で面白いのだが、過去にも同じようなケースはあったものの、意外に「大差」で決まることもあった。
新人王は記者投票の得票数によるもので、成績以外のインパクトも重要な要素にはなるだろう。
例えば1987年のパ・リーグの新人王争いは、近鉄の
阿波野秀幸と日本ハムの
西崎幸広の一騎打ちとなった。両投手の成績は、
阿波野 15勝12敗 防御率2.88=4位
西 崎 15勝 7敗 防御率2.89=5位
と、タイトルはどちらが獲ってもおかしくない内容だった。ところがフタを開けてみると、阿波野141票、西崎51票と大差がついた。阿波野はリーグ最多の投球回249回2/3(西崎221回1/3)と最多奪三振201(西崎176)が評価されたようだが、ちょっと差がつきすぎた感がある。
2007年のセ・リーグは阪神の
上園啓史と巨人の
金刃憲人の争いとなった。この2人の成績は、
上園 8勝5敗 防御率2.42 85回2/3
金刃 7勝6敗 防御率3.55 121回1/3
と勝ち星では上園が1つ上回っているが、投球回を比べると上園が金刃の3分の2しか投げておらず、これも接戦になると思われた。しかし結果は上園104票、金刃57票とこちらも大差がついた。
この年のパ・リーグの新人王は楽天の
田中将大で163票を得たが、2位は
西武の
岸孝之でたったの5票。
田中 11勝7敗 防御率3.82=14位 186回1/3
岸 11勝7敗 防御率3.40=12位 156回1/3
田中は高卒のスーパールーキーだったが、成績を見れば158票の差がつくとも思えない。これこそインパクトの差だったのかもしれない。
今年はインパクトではセは佐藤輝、パは宮城がリードしているが、果たしてどんな結果になるか注目したい。
文=永山智浩 写真=BBM