引き分けも許されない状況

早大の三番・蛭間拓哉は慶大1回戦(10月30日)で勝ち越しタイムリー。逆転優勝へ後がない状況で、勝負強さを発揮している
いつの時代も「早慶戦男」がいる。
早大が昨秋以来の東京六大学制覇を遂げるには、慶大に2連勝するのみ。9回打ち切りである、引き分けさえも許されない状況だった。
後がない慶大1回戦(10月30日)。2点を追う3回表一死一、二塁から福本翔(4年・早実)の左二塁打で1点差とすると、なおも、二、三塁から三番・蛭間拓哉(3年・浦和学院高)がしぶとく左翼線付近に落とす。2人の走者が生還して、勝ち越しに成功した。なおも、主将・丸山壮史(4年・広陵高)の右二塁打で、この回4点目。早大は5対3で勝利して、逆転優勝へ望みをつないだのだった。
さかのぼること1年前。昨秋の早慶戦もほぼ同じ状況で迎えていた。早大の自力V条件は、2試合で1勝1引き分け以上。1回戦で1対1の7回裏に勝ち越し2ラン、2回戦では1点を追う9回表に逆転2ランを放ったのが蛭間。10季ぶりのリーグ優勝に貢献している。
今秋の蛭間は早慶戦を迎えるまでの4カードで打率.242、1本塁打、3打点と力を出し切れずにいた。大一番を迎えるまでの約2週間「死に物狂いでバットを振った」と明かした。
「死に物狂い」とは、どれほどの次元なのか。
「自分のできる範囲で、朝起きてから寝るまで、バッティングのこと、どうすればチームに貢献できるのかを考えていました」
技術的な部分では、早大・
小宮山悟監督から「バットの軌道が遠回りしている」と、指摘があった。蛭間は「左手でボールをつかむ」ことを意識して振り込んできたという。
「良い当たりではなかったが、ああいうところに落ちてくれたのは、取り組みが間違いでなかったのかな、と思います」
なぜ、大舞台で勝負強いのか。
「この秋のリーグ戦はなかなか打てなくて、打席に入るのも不安でした。4年生に申し訳なくて……。チームメートが打ってくれたので、優勝争いの早慶戦の舞台に立つことができる。このステージでプレーできることに感謝して、支えてくれた人たちのために、恩返しをしたいと思っていました。明日もチームの勝利に貢献できるプレーをしたいです」
後がないシチュエーションは変わらない。早大・小宮山監督は「全力で、全員で、必死に何とか勝利をもぎ取りたい」と、慶大2回戦への意気込みを語った。繰り返しになるが早大のV条件は残る1試合、9イニングで勝つのみである。蛭間は「4年生とプレーできるのも、あと少し。もっと、一緒に野球をやりたい」と語った。勝てば、明治神宮大会(11月20日開幕)へ駒を進めることができる。令和の「早慶戦男」。蛭間は3年間、お世話になった最上級生のためにフルスイングを貫く。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明