
今季、マイナーで時間短縮を試みる試験が行われ、効果が出たものや、そうでなかったものもあった。けん制の回数を制限したり、ベースの大きさを変えたことで盗塁のパーセンテージも変化を見せた
MLBの今季の9イニングの試合の平均時間は3時間10分7秒と史上最も長かった。機構は近年試合時間の短縮に懸命だが、意に反し2019年の3時間5分35秒、20年の3時間7分46秒とより長くなっている。
一方でシーズンの平均打率.244は1972年以来のワースト、試合当たりの三振数は8.68個で、19年のワースト記録8.81個からろくに改善が見られない。どうすれば試合時間を短縮し、打って走ってのアクションを増やし、娯楽性を高めることができるのか。
このコラムで3、4月に触れたが、今季MLB機構は独立リーグやマイナー・リーグを使って実験に勤しんだ。ピッチクロックを15秒と短くしたり、マウンドの投球板を後ろに下げたり、一~三塁のベースを大きくしたり、けん制のルールを変えたり。結果、効果があったのもあれば、まったくダメだったものもあった。良かったのはローAウエスト・リーグで採用された15秒のピッチクロック。
試合時間は3時間2分から2時間41分と21分も短縮された。しかも安打数、得点数、本塁打数が増え、三振、四球が減って、まさにMLBの目論見どおりの結果だった。ローAではけん制の回数制限もしていた。
1打席あたりけん制は2回までで、3回目以降は刺せないとボークになってしまう。おかげで投手はテンポよく捕手めがけて投げ、けん制をしつこく繰り返さなかった。とはいえ、これはメジャーで即採用とはならないだろう。
クレイトン・カーショーやマックス・シャーザーなどベテラン投手が反対し、会も認めないからだ。投手はピンチのときほど、急かされることなく自分の間合いで投げたいもの。打者もそうだ。しかしながらマイナーではピッチクロックを採用し始めて7年になる(当初は20秒)。カーショーのようなピッチクロック経験が皆無のベテラン選手が何年か先には引退し、ほぼ全員が経験者となる。そうなれば絶対反対という選手は減り、受け入れる流れになると予想している。
ベースのサイズを3インチ(7.62センチ)広げるアイデアも好結果だった。前半は3Aの東、後半は3Aの西で実験した。メジャーでは今季盗塁を試みる回数は1試合平均0.61回、これは64年以来(0.58回)の低い数字である。だが3Aでは、塁間が11.43センチ短くなったことで、盗塁を試みる回数が増え、成功率も76パーセントに上がった。
さらに内野安打が増え、野手と走者の接触も減った。しかも現場の選手はベースのサイズの違いが気にならなかったという。こちらはメジャーでも早めに採用されるかもしれない。一方で意外にもほとんど効果がなかったのはアトランティック・リーグで試されたマウンドの投球板を1フィート(30.48センチ)後ろにズラすもの。
打者が打ちやすくなるかと思いきやそうではなかった。試合では得点が若干増えたものの、三振数も増加、打球は特に増えなかった。打者の反応時間は長くなったが、変化球の曲がり幅も大きくなり打ちにくかったのかもしれない。いかにゲームをテンポよくアクションの多いものにするか。MLBの試行錯誤は続けられる。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images