
女性として初めてプロの監督となったバルコベック[左]。彼女は野球に関してさまざまな技術やデータ技術を学び、その知識を選手たちへと還元できる力を持っているのだ
野球はアメリカでも日本でも国民的スポーツだが、ダイバーシティ(多様性)の流れの中、これからもそうであり続けるには、女性の活躍は欠かせないと思う。1月、2つの快挙が起こった。ヤンキースがレイチェル・バルコベックを傘下ローAタンパ・ターポンズの監督に昇格させ、アストロズがサラ・グッドラムを選手育成部門の部長に抜てきした。
ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは「リーグを代表して歴史的な快挙を祝福したい。1年前にキム・アングがマーリンズのGMに就任したことも意義深かったが、われわれは女性が選手、コーチ、審判、フロントのエグゼクティブなどでキャリアを積むことをサポートしている。球界の発展をうれしく思う」と歓迎した。
2人とも大学でソフトボールの選手だったが、それだけではこういった要職には就けない。バルコベックは大学の修士課程で人体の動きについて学び、2012年カージナルスのマイナーのストレングスコーチに就職。16年にアストロズのラテンアメリカのストレングスコーディネイターとなり、同時にスペイン語を習得、2Aチームのストレングスコーチの職を得た。
さらにワシントン州のドライブライン・ベースボールに移って、最新のテクノロジーを使ったデータ解析に従事し19年、ヤンキースのルーキー・リーグの打撃コーチとして採用された。そして今回アメリカプロ野球史上初の女性監督である。矢継ぎ早な転職でスキルを増やし、高めていった見事なキャリアアップだ。
バルコベックは「私にとって履歴がアドバンテージになっている。私は男性よりいろんなことをしておかないといけなかった」と振り返る。監督になれたのは打撃コーチとしての仕事ぶりが認められたからで「スイングのメカニックは私の得意分野、自信がある」と言い切る。
ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは「情熱があって、言語力はじめ、知識が多い。選手の育成に助けになり、拒むことはできない人材」と高く評価している。ヤンキースは名門球団だが、同時に進歩的でもある。90年代に女性のジーン・アフターマン、キム・アングをアシスタントGMに採用し、球界を驚かせた。
そして現在もメジャーのマット・ブレイク投手コーチはプロで投げた経験がないが昨季良い仕事をし、さらに評価を上げた。一方メジャーで10年のプレー実績があったマーカス・テイムズ打撃コーチは解雇され、代わってプロ経験ゼロのディロン・ローソンコーチが採用された。
現在のメジャーの選手たちは、昔と違い監督やコーチが現役時代どうだったかで判断しない。過去の名声ではなく、どれだけ役立つ存在なのかが重要だ。ゆえに性別に関係なく、選手時代の実績も気にかけず、優れた指導者を受け入れる。
グッドラムも大学の修士課程でスポーツサイ
エンスを研究したあと、ブリュワーズのスポーツサイエンス部門に就職、そしてマイナー・リーグの打撃コーディネーターとなった。そして今回アストロズに引き抜かれ選手育成部門の部長に。多様なキャリアアップ人材が増えることで球界は活性化していけるのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images