抜群のバットコントロール

今季、智弁学園高からドラフト4位で阪神に入団した前川
高卒ルーキーが「伝統の一戦」で鮮烈デビューを飾った。ドラフト4位ルーキー・
前川右京が3月13日に本拠地・甲子園で開催された
巨人戦に「七番・左翼」でスタメン出場すると、マルチ安打の活躍。高卒新人のオープン戦マルチ安打は1974年の
掛布雅之氏以来、球団史上48年ぶりの快挙だった。
結果だけでなく、打席内容も濃い。1点を追う7回一死一塁で2ストライクと追い込まれたが、
戸田懐生の外角へ落ちる3球目のフォークを右前に運ぶと、
小幡竜平の左中間を割る二塁打の間に一塁から勝ち越しの本塁生還。同点に追いつかれて迎えた9回二死でも2ストライクと追い込まれたが、
直江大輔の地面ギリギリのフォークに体勢を崩されながらも右前に運んだ。
「2本目の安打が象徴的ですが、タイミングを崩されても後ろにバットのヘッドが残っているので変化球をすくえる。高校生離れした打撃技術でバットコントロールに長けています。下半身がどっしりしていて振り切る力があるし、追い込まれてもバットに当てる技術と対応能力が高いので投手は打ち取りにくい。長打も率も残すタイプで
福留孝介を彷彿とさせますね」(他球団のスコアラー)
前川はスラッガーのイメージが強い。智弁学園高で1年春から外野のレギュラーをつかみ、春の近畿大会から四番に。鋭いスイングから放たれる飛距離は、高校OBの巨人・
岡本和真に劣らないと評された。甲子園に3度出場し、高校通算37本塁打をマーク。印象に残る一撃が多い。2020年秋の近畿大会決勝戦で大阪桐蔭高の最速154キロ右腕・
関戸康介の内角直球を右翼席へ。昨夏の甲子園では2回戦の横浜高戦でバックスクリーン左に運び、3回戦の日本航空高戦でも右中間に一発を放っている。
3年春以降は一番での起用が増え、最後の3年夏の甲子園でも一番で起用されている。打席が増えることで、多くのプレーに触れさせたいという小坂将商監督の狙いがあった。視野が広がった前川は走塁の意識が高まり、プレーの精度が上がった。指揮官は週刊ベースボールの取材で、前川についてこう評している。
「打球の飛距離、ボールをとらえる力は岡本和真と変わりません。ただ、前川はインパクトの際に両肩が固まってしまい、右肩にロックがかかって硬さが出てしまう。そこが柔らかくなればヘッドが走るようになる。甲子園では、今までは引っ張り気味だったがセンターから左に飛ぶようになり、横浜との2回戦ではあの方向(バックスクリーン左)に本塁打が打てた。今年に入って逆方向の打球が増えてきていたので、良い傾向になっていると思って見ていました。長打力がどうしても注目されますが、前川はアベレージヒッター。これからはバットが木製になりますし、次のステージでは投手のレベルも上がりますが、今後、どう成長してくれるのか楽しみです」
野球に取り組むストイックな姿勢
野球に取り組むストイックな姿勢はチームメートにも一目置かれていた。阪神の外野陣で高卒ルーキーがレギュラー争いに割って入るのは険しい道だが、前川はそのハードルを乗り越える予感を漂わせている。将来は打率3割、30本塁打をマークするチームの中心選手に。無限の可能性を秘める18歳は「開幕一軍」の切符をつかむため、オープン戦でアピールを続ける。
写真=BBM