ピンチでも動じない強いメンタル
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開幕戦で9回のマウンドに立った巨人のドラフト1位・大勢
巨人の新守護神に指名されたドラフト1位右腕の大勢が、球団史上初となる新人で開幕戦のセーブを挙げた。球界の歴史をさかのぼっても、1982年の阪急・
山沖之彦以来40年ぶりという快挙だ。
強心臓右腕は大舞台で迎えたピンチにも動じなかった。2点リードの9回にマウンドに上がると、先頭打者の
平田良介を自己最速タイの158キロの直球で空振り三振。その後に連打と
ビシエドへの死球で二死満塁と一打逆転の大ピンチを迎えたが、内角への156キロ直球で
木下拓哉のバットをへし折り、投ゴロに仕留めて無失点で締めくくった。お立ち台では「ピンチをつくってしまったんですけど、ブルペンで先輩たちが必死につないでいる姿を見ていましたし、ここで絶対に打たれてはいけないっていう気持ちで、自分も菅野さんをしっかり勝たせて……勝たせて……勝たしてあげられるように必死に投げました」と緊張の面持ちで言葉を紡ぎ、3万8156人が詰めかけた本拠地・東京ドームのスタンドから大きな拍手が注がれた。
オープン戦では7試合に登板し、防御率1.29と抜群の安定感を披露。スリークォーターとサイドの中間から投げる変則フォームで、常時150キロを超える直球は威力十分だ。直球だけではない。3月6日、
日本ハムとのオープン戦(札幌ドーム)では
今川優馬に3球連続スライダーを続けて空振り三振を奪うなど精度が高い。走者を出しても動じない強心臓も大きな魅力だ。昨季守護神を務めた
ビエイラの状態が上がらず開幕二軍スタートになった影響もあり、抑えに抜擢された。
故障に苦しんだ大学時代
西脇工高では2年秋から「四番・投手」として頭角を現したが、力に頼った投球でまだまだ粗削りだった。プロ志望届を提出するも指名漏れ。関西国際大に進学するとフォームを固めて直球に磨きをかけたが、故障に苦しんだ。3年時の3月には
阪神のファームとのプロアマ交流戦で150キロ台を連発したが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で春季リーグ戦は中止に。同年秋のリーグ戦も右ヒジの炎症で登板はなかった。4年春のリーグ戦も右ヒジのコンディション不良でリーグ戦登板は1試合のみ。大体大戦で四球を連発し、一死も奪えずに降板した。
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ウィニングボールを手に原監督[右]とツーショット
その後、右ヒジを疲労骨折していたことが発覚。手術は回避し、治療とリハビリを続けた。この時点ではドラフト1位どころかプロ入りも叶うか不透明な状況だったが、最後の秋のリーグ戦で評価を一気に上げた。9月19日の大産大戦で初回に自己最速を4キロ更新する157キロを計測するなど毎回の14奪三振をマーク。26日の追手門学院大戦でリーグ戦初完投勝利を飾った。10月4日の大体大戦では4安打14奪三振2失点の完投勝利。潜在能力の高さを発揮し、今年初めて視察した10球団のスカウト陣へ強烈にアピールした。
大学の先輩を超える成績を
大学でリーグ戦通算4勝3敗と目立った実績を残していないため、昨秋のドラフトで巨人から1位指名された時は驚きの声が上がった。大勢も驚きは隠せなかったが、周囲の空気を察していた。
「思っていたより早く名前を呼ばれたので“早いな”という印象です。ここまで評価していただいているとは思いませんでした。ドラフト1位という評価をしていただきましたが、ほかの1位の選手に比べるとまだまだ。巨人のファンの方に“大丈夫か”と思われているかもしれませんが、結果を残して、信頼されるピッチャーになりたいです」
オープン戦で大勢の投球を視察した他球団のスコアラーはこう分析する。
「もっと球が荒れているイメージがありましたが、思ったより制球がまとまっている。元
ヤクルトの
林昌勇を連想させます。直球は速い上に球質が重く感じるので押し込まれる。スライダーもキレがあり、コーナーに決まるとなかなか打てない。あとはメンタルの強さですね。ピンチでも臆せずに内角をどんどん突いてくる。良い投手であることは間違いないです」
大学の先輩で目標に掲げる
ロッテ・
益田直也は新人の2012年に72試合登板し、2勝2敗41ホールド1セーブ、防御率1.67を記録。新人最多登板、新人最多ホールド記録を樹立し、その後は球界を代表する守護神の座を築いている。大勢について、「潜在能力の高さは益田以上」と評する声も。プロの世界でその力を証明する。
写真=BBM