打者に仕事をさせない完ぺきな投球

完全試合を達成した瞬間の佐々木朗。笑顔がはじけた
ロッテ・
佐々木朗希が漫画の世界でも想像できない衝撃的な快挙を達成した。先発登板した4月10日の
オリックス戦(ZOZOマリン)で完全試合を達成。1994年5月18日に
巨人・
槙原寛己が
広島戦(福岡ドーム)で達成して以来、28年ぶり史上16人目の快挙達成で20歳5カ月はNPB史上最年少だ。完全試合で19奪三振は最多記録だった。
これだけではない。初回二死の
吉田正尚から5回までに13連続奪三振で64年ぶりに日本記録を更新した。直球は自己最速タイの164キロを2度マーク。ウイニングショットのフォークの精度も抜群だった。19奪三振のうち、フォークで奪ったのが15。直球は4だった。ストライク先行の投球で、3ボールにしたのは7回の先頭打者・
後藤駿太の1度のみ。スポーツ紙記者は歴史的偉業をこう振り返る。
「相手先発で同世代の
宮城大弥も5回まで1失点と好投していたので、佐々木朗も緊張感を切らすことなく投げ続けていたように感じました。昨季リーグ優勝を飾ったオリックスは簡単に抑えられる打線ではない。卓越したコンタクト率を誇る吉田正尚は球界で最も三振を奪うのが難しい打者と言って良いでしょう。その吉田尚から3つの空振り三振に抑え込み、後藤駿太、
福田周平と粘っこい打者にもまったく仕事をさせなかった。安打性の際どい打球もなく、完ぺきな投球でした」(スポーツ紙記者)
105球を投げ、ファウルを含めてバットに当てられたのは計35球のみ。プロの強打者がバットに当てることさえ難しい光景はなかなか目にしたことがない。直球は160キロ前後を常時計測し、同じ軌道から急激に落ちる150キロ近いフォークを織り交ぜられたら、相手打者は対処のしようがないだろう。
ダルビッシュ有(パドレス)、
田中将大(
楽天)、
菅野智之(巨人)、
大谷翔平(エンゼルス)、
山本由伸(オリックス)ら球界を代表する投手たちの快投に野球ファンは胸を躍らせてきたが、佐々木朗の今回の投球は異次元だった。
佐々木朗も口にした絶大な信頼感
大記録をアシストした女房役が高卒1年目の18歳・
松川虎生という事実を忘れてはいけない。力勝負だけでなく巧みなリードで相手の裏をかく配球も。19奪三振のうち4つは見逃し三振だった。フォークをきっちり止めるブロッキング能力も高いから、佐々木朗は右腕を思いっきり振り続けられる。打撃でも6回二死満塁からセンターのフェンスに直撃する走者一掃の適時三塁打と大活躍。佐々木朗は試合後のヒーローインタビューで、「松川がいいリードしてくれたので、しっかり、そこに要求に応えながら投げることができたと思います」と絶大な信頼を口にした。

高卒1年目らしからぬ落ち着きで佐々木朗をリードした松川
他球団のスコアラーは「佐々木朗は当然すごいですが、松川もすごいですよ。高卒1年目のレベルの選手ではない」と舌を巻く。
「打者をよく見ている。配球が繊細かつ大胆なんです。驚いたのは7回の吉田正尚に対する攻め方ですね。2ボール1ストライクからフォークで空振りを取って追い込むと、次も当然フォークだと思ったら内角低めの163キロ直球で見逃し三振に仕留めた。吉田クラスの強打者になれば3巡目の対戦は目が慣れてきて対応してくる。直球で勝負するのは怖いんです。フォークの精度が高かったので落ちる球でいくと思ったら、大胆に裏をかいてきた。完全試合が続いている中であの配球はよほどの強心臓でないといけない。松川は肝が据わっていますよ」
完全試合の瞬間、佐々木朗と松川は控えめに抱き合った。2人合わせて「38歳バッテリー」にとって、この大記録は伝説の序章にすぎないのかもしれない。
写真=BBM