
若返りを図り、新しいチーム作りを目指すカブス。左腕スティールなどが育ってきているが……どうなっていくのか楽しみだ
これまで日本から来た大物野手たちは、そこそこに強いチームが獲得し、即世界一を目指した。2001年の
イチローのマリナーズは公式戦116勝でア・リーグ優勝決定シリーズに進み、03年の
ヤンキースの
松井秀喜はワールド・シリーズに出場した。
福留孝介のカブスも前年が地区1位で08年も1位で97勝だった。
それが今回の
鈴木誠也のカブスは違う。21年は71勝91敗の4位で今季もここまで34勝48敗でプレーオフはほぼ無理。来季についても疑問符が付く。
再建の段階で、大物日本人選手を獲って数年後に強いチームにしていこうというシナリオは初めてだ。 契約の5年間で鈴木自身がメジャーにどうアジャストするかだけでなく、果たしてカブスのシナリオどおりに行くのかとても興味深い。
その1年目だが、ジェド・ホイヤー編成本部長のプランどおりにはいかなかった。次の偉大なチームを作りつつ、ナ・リーグ中地区で優勝争いにも加わろうと、オフに先発ローテーションの補強に力を入れ、ベテランのマーカス・ストローマン ドリュー・スマイリー、ウエイド・マイリーの3投手を獲得した。
しかしながら3人は右肩炎症、ワキ腹痛、左肩痛で現在はそろって負傷者リスト(IL)入り。経験の少ない若手を起用せざるを得ず、先発投手陣の防御率は4・90で30球団中26位である。借金14個の要因となっている。もっとも若手の中から直球の良い26歳の左腕ジャスティン・スティール、スライダーが良く曲がる27歳の
キーガン・トンプソンなど育った選手もいる。
野手では25歳の
ニコ・ホーナーが存在感を増す。パワーはないが、コンタクトヒッターで打率.302。遊撃の守備では名手アンドレㇽトン・
シモンズに教わり技術を磨く。守備防御点10点は遊撃手ではオリオールズのホルヘ・
マテオと並ぶトップである。
筆者は、ホーナーがスタン
フォード大からドラフト一巡指名された18年、メジャー・デビューした19年は、
ダルビッシュ有のおかげでカブスを連日取材していたため、あのホーナーがチームリーダーになろうとしていることに驚く。ホーナーも「自分では最近デビューしたつもりなのに、選手が大幅に入れ替わって、本当に早い」と目を丸くしている。
身体能力が高くデビッド・ロス監督が期待するのが23歳のクリストファー・モレル。打率.272、8本塁打、3三塁打、7盗塁。6月30日のレッズ戦では5安打を放つとともに、満塁のピンチに中直をさばき、本塁に97.3マイルの好送球で、俊足のトミー・ファムを刺した。とはいえホーナーやモレルがオールスター選手になる器かどうかはまだ分からない。
カブスは16年の世界一チームを昨季解体、見返りに14人のプロスペクトを得た。今月も、好打のウィルソン・コントレラス捕手をトレードし、見返りを得る。そんな中から数年後どれだけすごい選手が出てくるのかにチームの未来はかかっている。
ツインズのカルロス・コレア遊撃手の獲得に動くという話もあるが、次の偉大なカブスを見るには、まだしばらくは時間がかかりそうである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images