読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回はバント編。回答者は歴代2位の451犠打を誇る元西武ほかの平野謙氏だ。 Q.今年は日本ハムが何度もスクイズをやっていますが、相手にバレないためには、どのくらいでバントの構えをしたらいいんでしょう。また外された場合の必殺技はありますか。(愛知県・タケミチ・17歳)

プロでも難しいスクイズの技術。果たして名手・平野の必殺技は……
A.バントで意識するのはバットの太い部分を持っているほうの手。ただ、外された場合、グリップを持っている手が初めて生きます 今回はバントの質問に答えてみたいと思います。確かに教えたわけではありませんけど、
日本ハムの新監督・BIGBOSSは、スクイズをかなり積極的に仕掛けてきていますね。
スクイズは事前に察知されると、内野手がチャージして前に出てきたり、バッテリーに大きく外されて失敗する可能性が高くなります。したがって、なるべく遅く構えたほうがいいですが、やはりそれなりに早く構えて準備しないとバント自体が難しくなります。私は投手が足を上げ、体重移動を始めたら構えました。
次に考えるのは、しっかり当てることです。ただ、高校野球などを見ていると、当てることを意識し、体を開いてボールを正面に見て、少し腰を落として構える選手が多いですよね。そのほうがボールがしっかり見え、高い球、遠い球になっても飛びつきやすいと思っているようですが、実際には、正面向きの構えになると、体に余分な力が入り、動きがワンテンポ遅れてしまいがちです。
意識としては送りバントのときよりさらにリ
ラックスし、手もヒザも動くようにしたほうがいいと思います。あとはメンタルですね。得点に絡むシーンなので難しいとは思いますが、「やらなきゃ!」と思うと、どうしても余計な力が入ります。「仕方ないからやってやるよ」くらいでいたほうが手も体も動きます。いや、質問の方は高校生だと思いますので「やってやるよ」はまずいか(笑)。
もちろん、可能ならバントの基本どおり目とバットの距離は離さずやったほうが成功率は高くなりますが、遠くに外されたときはそうもいきません。
私が実際に飛びつかなきゃいけないくらい外されたときにやった必殺技を紹介しましょう。キャッチャーが捕れないくらいに外れているなら暴投で1点が入ることもありますが、しっかりキャッチャーがついているなら捕球され、三塁走者がアウトになる可能性が高くなります。
ここで生きるのが、グリップを持っているほうの手です。以前話しましたが、送りバントの場合、グリップを持っている手に意識を置くと、どうしても手でバットを操作しがちなので、太い部分を持っている手を意識し、グリップ側は添える程度のイメージでいいと思います。ただ、大きく外された場合、先を持っている手で伸ばしてもたかがしれていますよね。体が正対していたらなおさらです。このときの必殺技が、太いほうからは手を離し、グリップを持っている手を伸ばすことです。手首を固めて伸ばすと、ヘッドが落ちませんのでボールにも負けない。緊急事態の技術ではありますが、私はこれで成功させたことがあります。果たして、これが高校生の参考になる技術かどうかは分かりませんが、練習でやってみることで、いざというときの引き出しの1つにはなると思います。
●平野謙(ひらの・けん)
1955年6月20日生まれ。愛知県出身。犬山高から名商大を経て78年ドラフト外で
中日入団。88年に西武、94年に
ロッテに移籍し、96年現役引退。現役生活19年の通算成績は1683試合出場、打率.273、53本塁打、479打点、230盗塁。
『週刊ベースボール』2022年8月1日号(7月20日発売)より
写真=BBM