
大学日本代表・森下[中大4年・東海大相模高]は高校日本代表との壮行試合に途中出場し、元気な姿を見せた
思いが詰まった「2打席」だった。
侍ジャパンU-18高校日本代表壮行試合(8月31日、ZOZOマリン)。大学日本代表の右のスラッガー・
森下翔太(4年・東海大相模高)はゲーム後半から出場した(試合は大学日本代表が4対1で勝利)。
6回裏無死一、二塁から遊ゴロ。8回裏は近江・
山田陽翔(3年)の変化球に空振り三振と、結果を出すことはできなかったが、グラウンドに立つことに大きな意味があった。
ハーレムベースボールウイーク2022(オランダ)を控えた、国内直前合宿。森下は東芝との練習試合で右手に死球を受けた。骨折により、大会本番での試合出場は絶望となった。
野球選手として、プレーができない。本来であれば、チームから離脱してもおかしくない状況である。森下は一晩、じっくりと考えた。結論は「チーム帯同」。大学日本代表・大久保哲也監督(九産大監督)によれば、泣きながら「残留」への思いをぶつけてきたという。
森下は当時1年生だった2019年の日米大学選手権(日本開催)に出場。コロナ禍で20、21年は大学日本代表としての大会参加がなかったため、24人のメンバーで唯一の国際試合経験者だった。それだけに、日の丸への思いは誰よりも強く、侍ジャパンの精神を伝えていく立場であると考えていたのだ。
大会期間中は一塁ベースコーチに立ち、イニング合間には打撃のアドバイス。プレーでは貢献できないが、献身的に動いた。日体大・
矢澤宏太(4年・藤嶺藤沢高)は「仮に自分だったら? できないと思います。頭が下がる思い。森下の姿勢には、感銘を受けました」と語るほど、サポート役として存在感を示したのだった。
大会は4位で終え、7月17日に帰国。そして、8月31日の壮行試合でチームは再結成した。森下は全治3カ月の診断だったが、驚異的な回復により、戦いの舞台に戻ってきた。
大久保監督は、壮行試合後、父親のような顔で言った。
「ホームランを見たかったですけどね……。ただ、彼の持ち味であるフルスイングを披露することができた。良かったと思います」
大学日本代表の一塁ベンチも、森下の打席を、固唾をのんで見守っていたのが印象的だった。
中大が所属する東都大学一部リーグは9月3日、福島県営あづま球場で開幕する。「完全復活」を印象づけたドラフト候補・森下の全力プレーに注目である。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎