急激な成長で迎えた覚醒の時

今季、高卒2年目とは思えない抜群の投球内容を見せた高橋宏
昨オフ、「
中日はドラフト1位で栗林を獲ったほうが良かったのでは」という声が聞かれた。
広島に単独でドラフト1位指名された
栗林良吏は新人の昨季53試合登板で0勝1敗37セーブ、防御率0.86をマーク。セーブ機会での失敗なしと抜群の安定感で新人王を獲得した。
栗林は愛知県で生まれ育ち、愛知黎明高、名城大、トヨタ自動車と愛知県内の学校、企業で野球人生を歩んできた。ドラフト直前まで地元球団の中日も1位指名が濃厚だった。だが、中京大中京高の
高橋宏斗が進学を希望していた慶大を不合格となり、プロ志望届を出したことで方針転換する。栗林を指名せず、高橋宏を単独1位指名で獲得した。
高卒1年目の昨季は一軍登板がなく、ウエスタン・リーグで14試合登板し、0勝5敗、防御率7.01。もちろん、社会人卒の即戦力でプロ入りした栗林と、高卒で体力づくりから始まる高橋宏では求められる結果が違う。だが、栗林の大活躍を見て複雑な気持ちになった中日ファンは少なくなかった。
そして1年後。もうそんな声は聞かれない。高橋宏が急激な成長で覚醒の時を迎えようとしている。一軍デビューを飾った今季は19試合登板で6勝7敗、防御率2.47。打線の援護に恵まれない試合も多く、2ケタ勝利を挙げても不思議ではない登板内容だった。
7月7日の
DeNA戦(横浜)では球団日本人記録の最速158キロをマーク。常時150キロ以上を計測する直球が投球の半分を占め、スプリット、スライダーを織り交ぜて三振の山を築く。116回2/3と規定投球回数に到達していないにもかかわらず、リーグ3位の134奪三振をマーク。8月17日の広島戦(マツダ広島)で通算100奪三振に到達したが、14試合目でのシーズン100奪三振到達は、
楽天・
田中将大の16試合目、元
西武・
松坂大輔の18試合目、エンゼルス・
大谷翔平(当時は
日本ハム)の22試合目を上回るハイペースだった。
来季の新主役候補
野球評論家の
川口和久氏は、週刊ベースボールのコラムで「来季の新主役候補」に高橋宏の名を挙げている。
「真っすぐが速く質がいい上にスライダー、フォークも一級品。プロ2年目、20歳にしては完成度がかなり高い。何がきっかけになったか分からないが、夏場以降、ステップを踏むように1試合1試合成長し、ここぞの場面での勝負勘の良さを感じることも多い投手だ。打線の援護があれば2ケタにいき、今ごろ新人王の最有力候補と言われていたはずだ」と評価した上で、「地元愛知県出身でもあり、ファンの期待は高いだろう。来季、
大野雄大、
柳裕也、
小笠原慎之介の三本柱に加わるというより、二番手、いや15勝以上を挙げ、エース格になっていくポテンシャルもある」とその素質を高く評価している。
スポーツ紙デスクは、「剛速球で相手打者をねじ伏せる投球スタイルは、西武時代の松坂大輔を彷彿とさせる。まだまだ発展途上で直球はさらに速くなるでしょう。馬力もあるし、来年は先発の軸として稼働してもらわなければ困る。中日のエースはもちろん、侍ジャパンのエースにもなれる素材だと思います」と期待を込める。
立浪和義監督が就任した今季は6年ぶりの最下位に低迷したが、頭角を現した高橋宏は希望の光だ。大野雄、柳、小笠原と熾烈なエース争いを繰り広げることで、投手陣のレベルが底上げされる。来年3月にはWBCが開催される。日の丸のユニフォームを身にまとい、海外の強打者から三振を奪う姿が見られるだろうか。
写真=BBM