シーズンでは打撃2冠もMVPを逃し

1996年の日本シリーズでMVPに輝いたニール
ペナントレースもさることながら、日本シリーズ制覇に最も貢献した選手に与えられるMVPの栄冠。ちょっとやそっとの活躍では手に入らないものだが、わずか3安打という“最強コスパ”で獲得した助っ人がいる。
オリックスの
トロイ・ニールだ。
奇跡(?)が起きたのは1996年の日本シリーズ。前年はチームがオリックスとなって初のリーグ優勝を飾ったものの、奇しくも2022年と同じ
ヤクルトとの顔合わせで日本一には届かず、雪辱を期して臨んだシリーズだった。対する
巨人の投手陣は四番打者のニールを封じるべく、徹底的に内角を攻める。ニールの初安打は第1戦(東京ドーム)、8回表二死満塁で迎えた第4打席だ。マウンドにはリリーフエースで左腕の
川口和久。ニールは「川口を(同じ左腕の)工藤(
工藤公康。ダイエー)だと思って打った」と左前打を放つ。これで2打点。4打数1安打2打点と、ここまでは四番打者として可もなく不可もなく、ありふれた数字といえよう。
第2戦(東京ドーム)では3打数1安打。4回表一死二、三塁で迎えた第2打席で
槙原寛己から中前打を放ち2打点を稼ぐ。順調だ。ただ、そこからニールは沈黙する。2試合にまたがる4連続三振もあった。第2戦を終えた時点で、張り切り過ぎて右の人さし指にできた豆がつぶれていたというから、それも沈黙の遠因だったのかもしれない。
そしてオリックスの3勝1敗で迎えた第5戦(GS神戸)、巨人に1点を先制された3回裏。二死から巨人は三番の
イチローを歩かせ、不振のニールと勝負する満塁策を選ぶ。これで集中力が増したというニールは、
斎藤雅樹から左線二塁打を放ち、2打点。逆転したオリックスは、この回さらに3点を追加して、続く4回表に1点を返されるものの、そのまま日本一を決める。
ただ、その後のニールに安打はなく、日本一を決める逆転打が最後の安打となった。ニールは5試合で17打数3安打、打率.176ながら、6打点。ペナントレースでは本塁打王、打点王の打撃2冠ながらMVPをイチローに譲ったニールだったが、値千金の3安打で日本シリーズMVPに選ばれている。
文=犬企画マンホール 写真=BBM