名物練習で最も苦しんだ男

慶大・萩尾は早大1回戦[11月5日]で3打数無安打と、悔しそうな表情を浮かべた。打率.404、4本塁打、17打点と、打撃三冠部門におけるトップに立っている
慶大はあとがない状況となった。
東京六大学リーグ戦の最終週(第9週)の早慶戦。慶大が勝ち点(2勝先勝)を奪えば昨秋以来の優勝、早大が勝ち点を奪えば先に全日程を終えている明大の春秋連覇が決まる。
11月5日の1回戦は、手に汗握る攻防。3点を追う慶大は8回表に追いつき、9回表に途中出場の吉川海斗(3年・慶應義塾高)のソロで勝ち越した。しかし、その裏の早大の粘りにより、サヨナラ負けを喫した(4対5)。
第8週で明大が立大に連勝し、その時点で、早大のリーグ優勝の可能性は消滅した。しかし、伝統の早慶戦は別ものである。早大は永遠のライバル・慶大に対して闘志むき出しで向かってきた。5位だった今春は連敗を喫しており、意地を見せる形となったのである。
早慶戦を迎えるまでに打率.429、4本塁打、17打点と、打撃3部門でトップに立っていた慶大の四番・
萩尾匡也(4年・文徳高)は3打数無安打に終わった。10月20日のドラフト会議で
巨人から2位指名を受けてから、初のリーグ戦だった。この日は打率を.404に落としたが、戦後16人目の三冠王の可能性を残している。萩尾は言う。
「ドラフトとか、タイトルに対してのプレッシャーはないんですけど、試合前半は『勝ちたい』という硬さがありました。2回戦以降は苦しい状況ではありますけど、今までどおり、勝ちにこだわっていきたい。甘いボールは来ないですが、打てるボールをしっかり打っていこうと思います」
追い込まれているようには見受けられず、努めて、明るく、前向きに語った。
いずれにしても、慶大は早大から2勝をしなければ天皇杯を手にすることはできない。もちろん、先勝して優位な展開へと持ち込みたいところだったが、2つの白星を取りにいくことに変わりはない。
慶大には名物練習がある。日吉グラウンドでは実戦を想定し、得点圏でカウント0ボール2ストライクからのシート打撃を継続してきた。レギュラー野手8人。相手投手は左腕エース・
増居翔太(4年・彦根東高)らのリーグ戦級で、タイムリーを打った選手から抜けていく、壮絶メニューである。打てなければ、ライトポールまでダッシュするという罰走が加わる日も……。夏場には3時間30分以上続く日があったという。
慶大・堀井哲也監督によれば、最も苦しんだのは萩尾だという。「ただ、そこで苦労した選手が試合で一番打つそうなんです」と明かすように、きっちり神宮では結果を出してきた。土俵際での勝負強さを磨いてきた慶大。真骨頂を発揮するのはこれからだ。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎