力を入れる野球以外の部分での取り組み

2023年の慶大主将は廣瀬。昨秋までに東京六大学で通算13本塁打を放っている
神奈川県横浜市内にある慶大日吉グラウンドに足を運ぶと、今年は違うな、と感じた。球場周辺に落ち葉一つない。昨年と比べると、明らかに整然としていた。昨年11月の新チーム結成以降、環境整備に力を入れてきたという。あいさつもグレードアップ。人の目を見て一礼し、心がこもっていて丁寧である。
鎌田健佑マネジャー(新4年・成東高)が、その背景を明かしてくれた。
「1学年上の先輩方もしっかりしていて、良い伝統を残していただきましたが、それ以上に取り組んでいこう、と。自分たちの代は実力がないので、まずは、野球以外の部分で負けないようにしていこう、となりました」
新2年生以上の部員158人を一つに束ねる主将は、
廣瀬隆太(新4年・慶應義塾高)だ。
「幼稚舎(小学校)以来のキャプテンです。最上級生が後輩の見本にならないといけない」
2019年12月から母校を指揮する慶大・堀井哲也監督は「毎年、学生は4年生になると、ガラッと変わる。こちらとしても、廣瀬を中心に、4年生がどういうチームをつくってくるか楽しみです」と期待を寄せる。
廣瀬が慶大入学から3年間見てきた主将は2020年の
瀬戸西純(ENEOS)、21年の
福井章吾(トヨタ自動車)、22年の
下山悠介(東芝)。昨年11月27日の全早慶戦(ひたちなか)でかつて主将を務めた山崎錬(ENEOS)と福井からアドバイスをもらった。
「主将の形に正解はない、と。もともと瀬戸西さん、福井さん、下山さんにはなれないと思っていたので……。自分は別の道で生きていくしかない。言葉でどうこう言うタイプではありませんので、自分がまず、野球を楽しんでいるところを見せる。行動で示したい」
3年時は侍ジャパン大学代表としてハーレムベースボールウイーク2022(オランダ)に出場(4位)した。昨年12月には候補強化合宿(愛媛・松山)に参加。今年は日米大学選手権がアメリカで開催されるが、経験者として存在感が高まる。そこで芽生えた自覚がある。
「大学日本代表で主将をやりたいです。昨年まで責任ある立場を背負ったことがなかったんですが、今回、この役職を務めさせていただき、やりがいを感じているんです」
「打率にこだわっていきたい」
充実の表情を見せる廣瀬は昨秋までに、東京六大学で現役最多の13本塁打を放っている。学生ラストイヤーは「春5本塁打、秋5本塁打」を目標としており、これが実現すれば、リーグ歴代1位の慶大・
高橋由伸(元
巨人)の23本塁打に並ぶことになる。
「本塁打もありますが、打率にこだわっていきたい。打率3割を打った上で、プラスアルファでホームラン数も増えていけばいい」
四番・
萩尾匡也(巨人2位)、不動の三塁手だった下山が卒業。この穴を埋めるべく、堀井監督は廣瀬の「四番・サード」での起用を明言する。主将が音頭を取り、野球以外の取り組みに力を入れ、チームとしての精神的な厚み、一体感が高まっている。リーグ戦でのV奪還、2年ぶりの大学日本一を目指す今春の慶大は、不気味な存在になりそうだ。
文=岡本朋祐 写真=BBM