生の声が拾える貴重な場

センバツ選考委員会は午前8時30分開始の「21世紀枠推薦理由説明会」から、約7時間30分に及ぶ長い1日が始まる
第95回記念選抜高校野球大会の選考委員会が1月27日、大阪市内で行われ、出場36校が決まった。
取材者から見た選考委員会の醍醐味とは何か。午前8時30分からの「21世紀枠推薦理由説明会」である。午後4時30分に終了する記者会見まで、約8時間。選考する最初の場だ。
興味を引くのは、なぜか。
報道陣に公開するからだ。各都道府県連盟の理事長(専務理事)によるプレゼンと、説明を受けた選考委員からの質問が聞ける(報道陣からの質問はできない)。
同説明会後の「21世紀枠特別選考委員会」、10地区から一般選考枠を選出する「地区別小委員会」は、報道陣に非公開である。約3時間30分に及ぶ検討を経て、午後3時30分からの選考委員会総会で発表される選考結果を待つしかない。
「21世紀枠推薦理由説明会」の公開は、生の声が拾える貴重な場だ。
説明会の持ち時間は各地区、3分30秒。各都道府県連盟の理事長(専務理事)は、学校の思いを代弁する立場。入念に準備してきた原稿を読み上げる先生がほとんどだが、自分の言葉で力説する先生もいる。当然、後者のほうが、選考委員へ気持ちが伝わる。各連盟の理事長(専務理事)とは、連盟業務の中核を担う役職。大会運営においても中心的な存在で、加盟校の事情を熟知している。場合によっては、実際に学校に足を運ぶ先生もいるという。机上の資料だけはなく、現場で見た情報であれば、説明にもより説得力が増す。
説明の仕方にも、個性が出る。聞く側として分かりやすいのは、推薦理由を例えば「3点あります」と冒頭で発信すると、項目ごとにすんなりと受け入れることができる。短い時間で相手に理解してもらうための、スピーチのハウハウを勉強することもできる。
さまざまな人間ドラマ
今年は東日本(北海道、東北、関東・東京、東海、北信越)から氷見高(富山)、西日本(近畿、中国、四国、九州)から城東高(徳島)、地域を限定せずにラスト3校目は石橋高(栃木)が選出された。
最終プレゼンで最も印象に残ったのは、氷見高を説明した富山県高野連・高橋英司理事長の言葉だ。氷見高は昨秋の県大会で30年ぶりの優勝。北信越大会でも初戦突破を遂げ、8強進出と、実力も兼ね備えている。
忘れられない試合がある。昨夏の県大会決勝(対高岡商)では1点リードの9回二死、2ストライクまで追い込みながら、逆転負け(11対12)。目前に迫っていた甲子園を、あと一歩で逃したのである。新チーム結成後は当時、大粒の涙を流した3年生が後輩のために練習を手伝ってくれたという。漁師町の氷見市は人口減少が進んでいる。地元出身の高校球児の活躍が、地域活性化として期待されている。
高橋理事長は「氷見市民と3年生を甲子園に連れていく!」と、野球部の合言葉を紹介。そして、「21世紀枠旋風を巻き起こすことを、お約束します!!」と3分30秒を締めた。3年ぶりに対面での開催。高橋理事長の熱意が、選考委員15人に届いたのは間違いない。
センバツ選考委員会の臨場感を味わえる「21世紀枠推薦理由説明会」。今年も心と心が通じ合う、さまざまな人間ドラマがあった。
文=岡本朋祐 写真=代表撮影