元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売される。 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀、門田博光、コーチ時代の落合博満、村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。 罰金は簡単には払えない額にしなきゃいけない

『酔いどれの鉄腕』表紙
今回は「第6章
中日コーチ時代」より、監督の
星野仙一さんに関する逸話を紹介する。
1991年、俺は仙さん(星野仙一)の5年契約の最後の1年、ドラゴンズの投手コーチに呼ばれた。
ロッテのコーチを辞めてから、また解説者をやっていたけど、いきなり仙さんから電話がかかってきて「ミチ、俺と一緒にやらんか」と誘ってもらったんだ。
それで「島野(
島野育夫)、加藤(
加藤安雄)を東京に行かすから、あいつらに星野野球はどういうものか聞いてみてくれ!」と。
俺は「そこまでしなくてもいいですよ」と言ったけど、そのあと、ほんとにコーチの島野さん、加藤が東京まで来てくれ、中華料理屋で少し酒を飲みながら話をした。
島野さんは南海時代の先輩でもあるけど、「星野野球は絶対に負けられない野球なんだ」と熱く語っていた。俺は内心、「どのチームもそうだよな」とは思ったけどね。
誘ってくれた理由は、たぶん火鉢効果さ。仙さんがNHKの解説者としてロッテの鴨池春季キャンプに来たときがあったんだ。寒い日でね。俺はブルペンにいたんだが、仙さんが「おい、ミチ、来たぞ!」と声を掛けてきた。
それで「ああ、仙さん、寒いでしょう、こちらに」と言って火鉢の前の席に案内したら、えらく喜んでいた。そこで「俺はパ・リーグの投手は知らんのや。ミチ、教えてくれ」と言うんで、いろいろ話したんだ。それを仙さんが、のちのちすごく感謝してくれてね。人には親切にしておくもんだな。
(中略)
ウワサには聞いていたから仙さんの厳しさにはそんなに驚かなかったけど、びっくりしたのが罰金の高さだよ。門限破りとか試合中の決め事をしなかったときの罰金がすげえ高かった。
俺はもともと罰金って好きじゃないから、一度、「監督、罰金が高過ぎると思うんですけど」と言ったことがある。そしたら、こんな話をしてくれた。
「ミチな、以前、錦3丁目(名古屋の繁華街)の店に俺が友達と食事に行ったら、ウチの選手が、そいつのスポンサーと一緒にいたんや。それで、こっちがあいさつしたあと、そのスポンサーが俺に聞こえるように『おい、お前、門限破ったらいくらなんや』と選手に言った。選手が『1万円です』と言ったら、『じゃあ10回分払っておけ』って、いきなり選手に10万円を渡したんだ。それを見てカッときた。周りにほかのお客さんもいたし、そこでは何も言わんかったけど、あのとき、罰金は簡単に払える金額じゃダメにしようと思ったんや」
それから星野さんがやったのが罰金の倍々だ。1回目は1万円で、2回目が2万円、3回目が4万円、4回目が8万円。だから10回やったら……いくらになるんだ。
まあ、とんでもない額になるよね。仙さんは、「払える罰金なら、どうせこの程度と思ってすぐ同じことをやる。だから厳しくするんや。そうしたらしなくなる」って言ってた。
第6章「中日コーチ時代」より。