元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売された。 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀、門田博光、コーチ時代の落合博満、村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。 これでつかみはOKさ

『酔いどれの鉄腕』表紙
今回は「第7章
中日二軍監督時代」より。本はすでに発売になっているので、興味を持たれた方は、書籍を購入のうえ、全文をごゆっくりお楽しみください。
俺の最後、いや現時点の最後のユニフォームは中日の二軍監督だ。落合博満が呼んでくれたんだよ。
お互いの解説者時代、あいつが日刊スポーツで俺が報知でやっていて、
西武ドーム(現ベルーナ)の試合で一緒になったことがある。試合が終わったあと、電車は混むからと、新聞社がタクシーチケットをくれたんで、2人で一緒に乗って帰ったんだ。
車の中で「おい、オチよ、監督は給料が安いから嫌とか言わず、監督になれよ。それで俺をコーチで雇ってくれ」と、もちろん冗談で言った。そのときはニヤニヤしてたけど、中日の監督になったとき(2004年)、ほんとに呼んでくれたからびっくりしたよ。
ありがたかったな。年齢的に、もうチャンスはないかなと思っていたところで、もう一度、ユニフォームを着られたからね。しかも、二軍だけど、監督というやったことがない仕事ができた。ピッチャーだけじゃなく、全体を見るというのがすごく新鮮だった。
二軍監督は難しかったよ。一軍で活躍する選手を育てなきゃいけないけど、勝敗度外視というわけにはいかない。やっぱり勝利の味や、試合の中で勝つためにどう戦うかというのも若い選手にはいい勉強になるでしょ。
ただ、難しいけど、楽しかったし、ほんと勉強になった。落合には感謝、感謝さ。今も足を向けて寝れんよ。監督になって最初の選手ミーティングでは「一」の大事さを話した。ピッチャーであれば、まず初球、先頭打者。ファウルでも見逃がしでもいいから、初球にストライクを取ればすごく楽になるし、イニングの先頭打者を出さないことも大事だよね。
逆になるけど、バッターもそう。初球をヒットすればチームが盛り上がるし、初球から思い切り振れる積極性自体が、すごく大事だと思う。
俺も現役時代、経験があるけど、ピッチャーは初球のストライクを見送ってもらうと、すごく気分的に楽になるんだ。当たらなくても思い切り振ってこられると、何となく嫌な気分になる。
ほかも全部そうでしょ。盗塁も守備も一歩目がいいと成功の確率が上がる。もちろん、ただ無鉄砲に早く動け、という意味じゃないよ。投手や打者の初球もそうだけど、スムーズに動き出すためには、相手を観察し、体と心をしっかり準備しなきゃいけないからね。
そのミーティングでは最後、「一を大事にしないと、チームの一大事になるよ」と言ったらドッと受けた。これも「一」の大事さかな。監督として最初のつかみはOKということでしょ。
第7章「中日二軍監督時代」より。