元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売された。 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀、門田博光、コーチ時代の落合博満、村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。 殴られても「ありがとうございます」

『酔いどれの鉄腕』表紙
今回、紹介するのは日大1年時だ。佐藤道郎さん伝説の一つ、耳からタバコの煙を出す話だ。
大学時代は、ほんとよく殴られた。相手はもちろん先輩。殴られる理由は何でもありさ。顔が気にくわん、とか。顔は親にもらったもんだし、変えられないのにね。「お願いします!」で殴られ、そのあとは「ありがとうございます!」と言わなきゃならない。何がありがとうございます、だよね。
俺は日大三高からだから、ほかの1年生部員より早い時期から練習にも出てたけど、なんだかんだ理由をつけて殴られまくって、1週間くらいで鼓膜が破れた。マネジャーに診断書を持っていって「しばらく休ませてもらいたいんですが」と言ったら、「診断書なんか医者に50円渡したら誰でも書いてもらえるんだ」って受け取ってもらえなかった。
さぼるためのウソだと思ったんだろうね。それでこっちもムカッとして、先輩に「タバコください」って1本もらい、鼻をつまんで吸って、鼓膜が破れたほうの耳から煙を出したんだ。それを見て、さすがに「よし、休んでいい」ってなったけどね。
今のガールズバーみたいなもんかな。円形のテーブルの中に女の子がいて、その周りで飲む店によく行っていたんだけど、そこでよくやった。女の子が「わあ、すごい」と喜んでくれたからね。
1年生なら未成年? 昔の大学生なんて、みんなそんなもんでしょう。でも、あるとき耳鼻科に行って、この話をしたら、先生に、「ダメだよ。脳にニコチンで影響が出るかもしれない」と言われてやめたけどね。
そこから2カ月くらい練習にも学校にも行かないで、新宿の歌舞伎町の雀荘でアルバイトしていた。なんかバカバカしくなって野球部もやめる気だったんだ。戻ったのは新人戦の前に、新人監督に「佐藤、投げてほしいから出てこいよ」と言われてね。
不思議なもんで、ず~っと野球やってると遊びたくなるけど、ず~っと遊んでいると野球をやりたくなるんだよ。根は野球好きだしね。
戻ったら10日間くらい「2カ月もなんで休んだんだ!」って殴られまくったけどね。