元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』が2月4日にベースボール・マガジン社から発売された。 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀、門田博光、コーチ時代の落合博満、村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。 焼き肉屋とフォークソングを歌える店がセットだった

『酔いどれの鉄腕』表紙
本の内容をちょい出ししている連載。今回は佐藤道郎さんが南海の若手時代、大投手・
杉浦忠さんとの話だ。
1年目、俺が抑えとしてそこそこ活躍しだしてからだけど、いつも杉浦忠さん(1959年には38勝をマーク)と一緒だった先輩が「ミチ、スギさんがお前を食事に誘っているが、どうする?」って言ってきた。
どうするって、断れるはずがないよね。神様から誘われたようなもんだから、かわいい彼女とデートがあっても行くしかないだろ。
それで杉浦さんのなじみの焼き肉屋に連れて行ってもらったんだけど、食べ終わったら、「ミチ、お前、フォークソングは好きか」と聞かれたんで、「嫌いじゃないです。日大の寮にきったねえギターがあったんで、見よう見まねでやってました」と言ったら、フォークソングのギターを弾いたり歌ったりできる店に連れて行ってくれた。
当時は、そういう店が結構あったんだ。杉浦さんに「やってみろ」と言われ、コードはCマイナーとか単純なやつしかできないけど、弾きながら、『夜空の星に……』と歌った。
焼き肉屋とフォークソングの店は、そのあと何度も誘ってもらった。楽しい酒だったな。グラウンドを離れたらあまり野球の話はしない人で、バカ話ばっかりだったよ。
でもさ、杉浦さんたちと焼き肉に行くと、全部、肉で野菜がない。「先輩、野菜は食わなくていいんですか」と聞くと、中堅どころの人から「アホ、焼き肉屋で葉っぱ食ってどうするんだ」って言われ、ひたすら肉を食っていた。
焼き肉は、杉浦さんと一緒のときだけじゃない。昔の野球選手は「きょうはスタミナつけるぞ。よし、焼き肉だ!」ってすぐなったからね。七輪で焼いていた路地裏の有名な店にもよく行ったけど、マスターの口が悪かったな。「焼き過ぎたらダメだ。ユッケで食える肉なんだぞ。そんなに焼くならもっと安い肉にしろ!」って何度も怒られたよ。
ホルモンのおいしい食べ方を覚えたのもそのときだったな。山盛りにして蒸すんだ。そうすると、焼き過ぎず、トロトロになってうまい、うまい。
焼き肉話のオチじゃないけど、俺は南海2年目に痛風になった。そりゃそうだよね。週に何度も焼き肉屋に行って、最初はビールとレバ刺しで、あとはひたすら焼き肉を食っていたから。南海のチームドクターからは「24歳で痛風なんて聞いたことないぞ」って言われたよ。