頼りになるのは3年生
早実は東海大高輪台高との東京大会初戦[2回戦]で逆転勝利。和泉監督[左端]は試合後、手応えを口にした[写真=BBM]
公式戦でしか経験できない、価値ある1勝だった。早実は東海大高輪台高との東京大会初戦(2回戦、4月5日)で逆転勝利(8対4)を収め、3回戦進出を決めた。
1回裏に幸先よく2点を先制も、2回表に追いつかれ、3回表には2点の勝ち越しを許した。3回途中から救援した2番手の右腕・荒川稟治郎(2年)の好救援もあり、ペースを握ると、5回裏に追いつく。4対4のまま、場内では9回を終えて同点の場合、延長10回からのタイブレーク実施がアナウンスされる中、早実が8回裏に4点を勝ち越した。声だしが解禁となり、ブラスバンド、チアリーダーを動員した三塁側の早実応援席は、伝統の応援歌『紺碧の空』で盛り上がった。
早実は4月1日、花巻東高[岩手]との記念試合でサヨナラ勝ち[7対6]を収めた[写真=井沢雄一郎]
「負けると何も残らないが、こういう展開は、チームを強くする」
早実・和泉実監督は試合後、手応えを口にした。この逆転劇には、伏線があった。早実は4月1日、きたぎんボールパーク(岩手県盛岡市)のオープニングイベントの記念試合で、花巻東高と対戦した。早実・
清宮幸太郎(現
日本ハム)の高校通算111本塁打を、4月1日時点で117本塁打(主な高校生)に更新していた
佐々木麟太郎(3年)を擁す、地元・岩手の強豪校である。
「花巻東さんとは、定期的に練習試合をさせていただいていますが、大敗ばかり……。今回は1試合目にサヨナラ勝ち(7対6)。口では『あきらめるな』とは言ってきましたが、実体験ができました。成功体験は自信になりますから、一皮むけたと言いますか、転機になったと思います。今回の遠征が一つの成果となり、岩手の関係者の方々には感謝したいです」
2対6の8回裏に4点を挙げて追いつくと、9回裏に3年生・深谷空のサヨナラ打で勝利(7対6)を収めた。第2試合は5回終了の特別ルールを、6対5で制している。
早実の2023年のチームを語る上で、ターニングポイント。夏本番を控え、この試合が持つ意味は大きかった[写真=井沢雄一郎]
東海大高輪台高との2回戦で勝利投手となった荒川、5回裏に同点適時打を放った石原優成、8回裏に勝ち越したあと、決定的な3ランを放った宇野真仁朗と、2年生の元気の良さが目立つ。下級生の押し上げはあるが、やはり、最後の夏に頼りになるのは3年生だ。
和泉監督は「1年夏から使ってきた上級生(主将の箭原裕太郎中堅手、山本蒼空三塁手、深谷一塁手、正捕手・江崎大耀)は結果が出ずに苦しんできたが、ここにきて意地を感じる。練習の言動からも、成長しようという、努力の姿勢が見えます」と、最後の夏を控えた3年生の心の充実に、手ごたえを得ている。
早実の夏の甲子園出場は、清宮が1年生だった2015年夏以来、遠ざかる。伝統の粘りが発揮され、夏本番へと士気を上げていく。
文=岡本朋祐