激しすぎる二遊間のレギュラー争い?

2003年には世界記録の512犠打を達成した川相
WBCの侍ジャパンにとどまらず、特に世界大会におけるニッポンの野球で持ち味、そして強味といわれるのが、いわゆるスモールベースボール。盗塁、バント、ヒットエンドランなどの緻密なプレーで得点を積み重ねていくものだ。
ヒットエンドランのヒットは、数字としては1安打で、走者なしの場面でのヒットと同じ数字となる。このときの走塁は盗塁ではなく、本塁を踏んだとしても、ほかの得点と同じ1得点だ。一方、盗塁の多いチームは機動力野球と表現されるが、送らずとも走れるという部分では、犠打に頼りすぎることもない。とはいえ、“小技”などとも表現される犠打こそが、スモールベースボールに不可欠なプレーであり、それを象徴する“技”といえるだろう。
今回は、通算およびシーズンの“犠打王”たちに注目してみた。引退してから監督として日本一に輝いた男たちも散見される。そのうち、盗塁王と“犠打王”の両方を経験しているのが1985年に
阪神を日本一に導いた
吉田義男監督だ。歴代の“犠打王”は、まず遊撃手、次いで二塁手が多い。その点でも華麗な遊撃守備で“今牛若丸”の異名を取った吉田監督は、“犠打王”たちを率いるのにふさわしいといえそうだ。ただ、1985年の阪神はリーグトップの141犠打をマークしたとはいえ、4選手が30本塁打を超え、チーム219本塁打をマークしたパワー抜群の打線。対照的ともいえる打線を、“犠打王”たちの打線に組み替えてみると、どうなるだろうか。
守備位置が重なった場合は、通算、次いでシーズンの犠打が多い選手を優先する。ここで外れた選手も、他のポジションで過去に各チームのベストオーダーに並んでいたら、そのポジションで打順に入れてみた。打順は戦略的な視点を持たず、阪神1985年のベストオーダーにおける守備位置に、自動的にスライド。すると、以下のようなラインアップとなる。
1(右)
山崎隆造(
広島)
2(中)
平野謙(
中日ほか)
3(一)
新井宏昌(近鉄ほか)
4(三)
宮本慎也(
ヤクルト)
5(二)
菊池涼介(広島)★
6(左)
森本稀哲(
日本ハムほか)
7(遊)
川相昌弘(
巨人ほか)
8(捕)
伊東勤(
西武)
9(投)
山本昌(中日)
(★は現役)
実際のベストオーダーは?

歴代2位の通算451犠打をマークしている平野
二遊間に続いて三塁手が多い“犠打王”たちだが、意外にも外野手は少なめ。シーズン50犠打を超えた選手に捕手は不在だが、通算になると捕手は増えてくる。ただ、とにかく少ないのが一塁手。長距離砲の多いイメージがあるが、同時に“犠打王”は少ないポジションといえるだろう。
通算犠打で世界の頂点に立つ川相昌弘が遊撃手で、現役で2022年シーズン終了時点で歴代4位の
今宮健太(
ソフトバンク)を控えに追いやった。同じ遊撃手で歴代3位、シーズン1位の宮本慎也は、キャリア後半の三塁でメンバーに並ぶ。現時点では歴代5位、現役の菊池涼介が二塁に入り、二遊間、三遊間は鉄壁。控えも今宮に
田中浩康(ヤクルトほか)、
田中賢介(日本ハム)、
金子誠(日本ハム)に
和田豊(阪神)と盤石だ。
歴代2位の平野謙は中日で中堅、西武では右翼を守っていた。歴代8位の新井宏昌は南海(現在のソフトバンク)と近鉄で外野の全ポジションを守ったが、穴を埋めるべく近鉄88年の一塁に回る。中堅が平野で、左翼はシーズン12位の森本稀哲、右翼は通算36位の山崎隆造となった。
捕手のトップは通算6位の伊東勤。伊東も西武を日本一に導いた監督でもある。その後輩で通算9位の
細川亨(西武ほか)が2番手だ。バッテリーを組むのは通算153犠打で投手トップの山本昌(山本昌広)で、一発はなくとも、守り勝つ野球が成立する。実際の阪神85年ベストオーダーとの対戦だけでなく、“犠打王たちの侍ジャパン”で世界と戦っても、かなり善戦しそうな気がするのだが……。では、続きはファンの皆様の夢の中で。
(阪神1985年のベストオーダー)
1(右)
真弓明信 2(中)
北村照文 3(一)バース
4(三)
掛布雅之 5(二)
岡田彰布 6(左)
佐野仙好 7(遊)
平田勝男 8(捕)
木戸克彦 9(投)ゲイル
文=犬企画マンホール 写真=BBM