長嶋茂雄の引退試合に

最後は西武で引退した“生涯一捕手”野村
この2023年はWBCの余韻も残る中、プロ野球のペナントレースが開幕。一方で、WBCの“裏番組”のように進んでいたのがオープン戦だ。近年は減ってきているが、かつてのオープン戦は、歴戦のレジェンドたちを送り出す引退の花道になることが少なくなかった。もちろん、最近のレジェンドがペナントレースの終盤に華々しく送り出されることが多くなっているだけで、オープン戦だから格下、などということはない。それどころか、球史に燦然と輝く男たちが、オープン戦を最後にユニフォームを脱いでいる。
プロ野球の頂点に立つ通算868本塁打を残した
王貞治も、そんな1人だ。今回は、そんな名選手たちが一堂に会したオーダーを考えてみたい。オープン戦で引退セレモニーがあった選手だけでは層が薄くなるので、どんなレジェンドであっても日本シリーズ終了までに引退セレモニーがあった選手だけを除き、ファン感謝デーや古くは秋に開催されていた東西対抗戦などが最後の舞台だった選手、引退試合やセレモニーがなかった名選手にも集ってもらおう。
逆に、引退セレモニーの歴史を変えたといえるのが1974年、
巨人の
長嶋茂雄だろう。長嶋が引退の決意を
川上哲治監督に告げたのは球宴が終ってからだが、6月には川上監督が「長嶋のために、誰も納得できる美しいセレモニーを考えてほしい」と球団に頼んでいたというから、およそ半年に及ぶ企画だったわけだ。パイオニア的な面でもインパクトは大きかったが、これに続くレジェンドたちの引退セレモニーが長嶋のものを超えるのは簡単ではなさそうだ。シーズン中に引退セレモニーがなかった名選手を並べるにあたって、引退セレモニーでマイクに向かう長嶋の背後にある後楽園球場のバックスクリーン、そこに光る巨人のオーダーをベースにしてみる。
(長嶋茂雄の引退試合、最終オーダー)
1(中)
柴田勲 2(左)
高田繁 3(一)王貞治
4(三)長嶋茂雄
5(右)
末次民夫 6(遊)
黒江透修 7(二)
土井正三 8(捕)
吉田孝司 9(投)
横山忠夫 このときの守備位置に対象のレジェンドたちを過去のベストオーダーにある守備位置で入れると、以下のようなラインアップとなる。前述の王は長嶋の引退試合にも出場しているため外したが、それでも強力なオーダーが完成した。
通算2000安打クリアの好打者ズラリ
1(中)
福本豊(阪急)
2(左)
張本勲(
ロッテ)
3(一)
大杉勝男(
ヤクルト)
4(三)
落合博満(
日本ハム)
5(右)
谷沢健一(
中日)
6(遊)
藤田平(
阪神)
7(二)
高木守道(中日)
8(捕)
野村克也(西武)
9(投)
金田正一(巨人)
(所属は最終)
投手はプロ野球トップの通算400勝を残した金田正一を置いたが、222勝の
村山実(阪神)、206勝193セーブの
江夏豊(西武)、“フォークの神様”
杉下茂(大毎、現在のロッテ)に南海(現在の
ソフトバンク)黄金時代の
杉浦忠、“怪物”
江川卓(巨人)、平成に引退した選手でも“スピードガンの申し子”
小松辰雄ら盤石の布陣で、彼らとバッテリーを組むのは“生涯一捕手”として3チーム目の西武で引退した野村克也だ。
王を外した一塁にはオープン戦で名言を残した大杉勝男。一塁に加え二塁、三塁も守れる落合博満は、今回は三塁手として四番に。落合は最後の試合を終えた後、ファンと握手して回っただけだった。三塁には“ミスター・タイガース”
藤村富美男や、“怪童”
中西太(西鉄、現在の西武)もいる。通算2000安打を超える高木守道、藤田平の二遊間は守備も鉄壁だ。
外野は左翼に通算3085安打の張本勲、中堅には
上田利治監督の最終戦での言い間違えで「もうええわ」と引退した通算1065盗塁の福本豊、右翼にはアキレス腱を痛める前に守っていた谷沢健一。一塁や外野には“青バット”の
大下弘もいて、打線に穴はなさそうだ。投手もさることながら、名前を挙げきれないほど多くの好打者が静かにバットを置いてきたことをあらためて思い知らされる。
文=犬企画マンホール 写真=BBM