定岡正二氏、篠塚和典氏、川口和久氏、槙原寛己氏の書籍『昭和ドロップ!』が5月2日(一部地域を除く)、ベースボール・マガジン社から発売されました。昭和に生まれ育ち、昭和、平成に輝いた4人が、巨人、長嶋茂雄、青春の多摩川ライフなど、あのころのプロ野球を愛あり笑いありでたっぷり語り合う1冊です! これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載です。 巨人入団が決まってから、ずっと楽しみにしていたのがお風呂です」(川口)

『昭和ドロップ!』表紙
再び定岡正二さん、篠塚和典さん、川口和久さんでミスターこと、長嶋茂雄さんについて語ってもらった章の一部である。
今回も1993年、長嶋茂雄監督2期目の話である。
川口 僕が長嶋さんで一番印象的なのは、あんパンなんですよ。監督が入った食堂で、あんパンの切れ端が必ずあるんですよ。それを「あ、これ長嶋さんのだ!」って、あとでみんなが取りにくる(笑)。
篠塚 ミスターは1個全部は食べないんだよね。必ず手でちぎって少しだけ食べ、残りは皿に置いておく。
川口 あれはもう、『あんパン事件』ですよ(笑)。
定岡 失礼ですけど、野球以外は子どもだからね、ミスターは。でも、それが魅力になるんだ。何と言うのかな……。
篠塚 なんでも許せちゃうというのはありましたよね。
定岡 そうそう!
川口 でも、許せないことが一つあったな。
定岡 なんだ! おかしなことを言うと、全国の長嶋ファンを敵に回すよ!
川口 いや、許せないは冗談で、本当は巨人入団が決まってから、ずっと楽しみにしていたことです。お風呂です。
定岡 ああ、あれか(笑)。
川口 試合が終わって風呂に入っていたら、監督が「ああ、みんなご苦労さん」って入ってくるじゃないですか。それで、ボディソープを体にジャーッとつけて泡だらけになったら、それを流さずに湯船に入ってくるんです。そのあと、さっとあがって「じゃあな!」で帰るんですよね。湯船の泡を取るのが大変で(笑)。
定岡 俺たちのころも同じさ。ミスターのあとで入るときは「あれ、ここは泡風呂だったっけ」と思うくらいだった(笑)。
川口 ウワサに聞いていたので、ほんと初めて見たときはうれしかったな。
定岡 グッチが巨人に来たときのミスターは、もう温和だったでしょ。
川口 グラウンド以外では優しいおじさんでしたね。来たばかりのとき、2人になったら「川口、もう若くないんだから無理するな」と言われたことがあるんですよ。期待してなかったんですかね(笑)。グラウンドでは厳しい顔をしていても、ベンチ裏とかになるとすごく優しくて、「川口、お前、メシ食ってるか」とか言ってくれた。あのころの俺は長嶋さんと話せるだけ幸せでした。
定岡 僕のいた1期目とはまったく違うな。そういう優しいときを知らないからね。厳しいミスターが嫌だったわけじゃないけど、そこで選手として、やってみたかったよ。