元南海-大洋の佐藤道郎氏の書籍『酔いどれの鉄腕』がベースボール・マガジン社から発売された。 南海時代は大阪球場を沸かせたクローザーにして、引退後は多くの選手を育て上げた名投手コーチが、恩師・野村克也監督、稲尾和久監督との秘話、現役時代に仲が良かった江本孟紀、門田博光、コーチ時代の落合博満、村田兆治ら、仲間たちと過ごした山あり谷ありのプロ野球人生を語り尽くす一冊だ。 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載である。 カッコよかった衣笠さん

『酔いどれの鉄腕』表紙
本の内容をちょい出ししている連載。今回は
広島の鉄人・
衣笠祥雄さんとの逸話だ。
衣笠祥雄さんとは、2年目だったと思うけど、北新地の街中でばったり会ったことがある。向こうから歩いてきたんであいさつしたら「おお、ミチか。一軒付き合えよ」と言われ、衣笠さんがなじみの小さなスナックに行ったんだ。そしたら、ほかに年配のサラリーマンの客が3人いて、2人は酔っぱらって寝ていた。
そのとき俺は、「いいね。サラリーマンはあした休めるから。俺たちは休めないのにさ」と言ったんだ。
そしたら衣笠さん、「ミチ、それはアマチュアだ。休めないというのは、人のためにやっているからだ。プロは休めないじゃなく、休まないんだ」って。
超一流は違うなと思った。文字にしたら「め」と「ま」だけの違いなのに、まったく違ってくるんだからさ。
衣笠さんは、ほんとカッコいい人だった。これもたまたま東京遠征の夜に街中で会ったんだけど、一緒に行こうと言われ、六本木で『クレージーホース』というダンスができるところに行ったことがある。ほかに女の子が3人くらいいてね。
店に音楽が流れて、ホールでダンスが始まったとき、衣笠さんは出て行かず、端っこでポケットに手を突っ込んで体を揺らしていた。女の子もみんな踊らないで見とれていた。リズム感が違うんだよね。俺から見てもカッコよかった。だから死球で大ケガにならなかったんだろうな。