三振奪取能力が高い「鉄仮面」

現在、リーグ3位の25セーブを挙げている岩崎
18年ぶりのリーグ優勝を目指す
阪神。8月22日の
中日戦(京セラドーム)で、同点の延長10回に
大山悠輔がサヨナラ適時打で勝負を決めて3連勝を飾った。貯金は今季最多の25に更新。マジックを25に減らした。
扇の要の
梅野隆太郎が左尺骨骨折で8月上旬に戦線離脱。守護神に抜擢された
湯浅京己も左脇腹の筋挫傷で長期離脱と万全の戦力ではない。だが、今の阪神は選手層が厚い。代わりに出場した選手がカバーし、戦力が落ちない。特に救援陣の安定感はピカ一だ。湯浅、
浜地真澄と力がある若手の成長株たちが不在の中で、ブルペンの中心となって支えているのが、
岩崎優だ。
2017年から7年連続40試合以上登板。大きな故障がなく、「鉄仮面」とも形容されるポーカーフェースで淡々と投げ続ける。球持ちの良いフォームから左腕が繰り出す直球は140キロ台の球速以上のキレを感じる。スライダー、チェンジアップを織り交ぜてピンチの場面も動じない。今季は48試合登板で3勝1敗25セーブ12ホールド、防御率0.78をマーク。46回を投げて57奪三振と三振奪取能力が高い。
岡田彰布監督の当初の構想では8回を担うセットアッパーだったが、湯浅の離脱で守護神に。岩崎が稼働しなければ、勝利の方程式が崩れてしまう。責任が重いポジションだが、重圧を感じさせないマウンドさばきで淡々とアウトを重ねる。6月28日の中日戦(甲子園)から自己最多を更新する22試合連続無失点。2カ月近く失点していない。
タフで安定したパフォーマンス
阪神を取材するスポーツ紙記者は、「リーグ優勝を飾ったときにシーズンMVPを挙げるなら、間違いなく岩崎を推します。リリーフは失敗されたときに注目される役回りですが、心身共にタフで常に安定したパフォーマンスを発揮している。貢献度はチームNo.1でしょう。他球団の抑えを見ると、岩崎のすごさが際立ちます」と評価する。
今季は各球団でリリーバーの誤算が目立つ。
巨人は新人の昨年に37セーブをマークした
大勢が右上肢のコンディション不良で6月30日に戦線離脱。
広島も
栗林良吏が救援失敗を繰り返したため、
矢崎拓也を抜擢した。22セーブと期待以上の活躍を見せていたが、疲れが見えた8月に4試合連続失点を喫し、19日に登録抹消された。
DeNAも通算227セーブと実績十分の
山崎康晃が不安定な投球が続き、7月中旬に中継ぎへ配置転換。阪神も湯浅が稼働しなかったのは誤算だが、岩崎が補って余りある活躍を見せている。
大事な仲間のためにも
10年前のドラフトで注目される存在ではなかった。国士舘大では東都2部リーグでリリーバーとして活躍。ドラフト6位で阪神から指名を受けた。
岩崎は週刊ベースボールで当時を以下のように振り返っている。
「阪神からまさか指名されると思っていなかったので、ドラフト会議はあまり気にしていませんでした。2、3球団ぐらいは自分をチェックしてくれていると聞いていましたけど、100パーセントないと思っていました。一応、万が一のために『大学(国士舘)の寮から出ないでくれ』と言われていたので、自分の部屋にはいましたけどね。テレビで流れる最初の1時間ぐらいだけ観て、下位指名はもう気にせずゲームなどしていた記憶があります。そうしたら、高校時代の友達からドラフト6位で指名されたと聞いて……。最初はウソだと思ったぐらいです。指名された直後は正直、プロに行くか迷いもあったんですけど、あれよ、あれよという間に入団していました(笑)」
このドラフトで1位に
岩貞祐太、4位に梅野が指名された。10年の月日を経て、共に初のリーグ優勝の歓喜を味わえるか。そして、もう1人大事な仲間が。2位指名の
横田慎太郎さんが今年7月18日、脳腫瘍のため28歳の若さで死去した。追悼試合となった同月25日の巨人戦(甲子園)。岩崎は9回を締めくくると、勝利の瞬間に天を見上げた。
「一日一日いい報告ができるようにしていって、最終的に一番いい報告ができるようにと思います」
胴上げ投手となったとき、鉄仮面左腕の笑顔が見られるだろうか。
写真=BBM