育成出身で球団初の規定打席に到達

今年こそ、低迷から脱却を果たしたい松原
今年の
巨人は外野のレギュラーが固まっていない。高卒4年目の
秋広優人、プロ2年目の
浅野翔吾、
萩尾匡也、ドラフト3位の新人・佐々木俊輔と若手の躍動が注目される中、この選手はラストチャンスを迎えていると言ってもいいだろう。プロ8年目の28歳、
松原聖弥だ。
昨季は21試合出場で無安打。スタメン出場は1度もなかった。イースタン・リーグでも90試合出場で打率.239、0本塁打、18打点、7盗塁。プレースタイルを考えたときに出塁率.384は評価できるが、松原の能力を考えれば打率が低過ぎる。
数年前は巨人の将来を背負って立つリードオフマンとして、期待された逸材だった。明星大から育成ドラフト5位で入団したときは無名の存在だったが、18年にイースタン歴代最多の133安打をマークして頭角を現す。俊足を生かした広い守備範囲と強肩、打撃でもミート能力があり、173センチと小柄な体格ながらスタンドに運ぶパンチ力が魅力だった。20年は86試合で打率.263、3本塁打、19打点、12盗塁をマーク。翌21年は最も輝く。育成出身で球団初の規定打席に到達し、135試合で打率.274、12本塁打、37打点、15盗塁。同年限りで現役引退を発表した
亀井善行(現外野守備兼走塁コーチ)が10月23日の
ヤクルト戦(東京ドーム)後の引退セレモニーで、「聖弥、あんたは天才だから。もうちょっとだけ頭使っていけよ」と名指しでゲキを飛ばした光景が印象的だった。
明るい未来が見えていたはずだが…
攻守で見える粗を少なくしてプレーの精度を上げていけば、持っている才能をさらに伸ばせる。巨人ファンで知られるタレントの中居正広氏は週刊ベースボールのコラム「中居正広のとことん野球好き」で、「それこそ野手では松原聖弥。彼の成長というのはジャイアンツにとっては非常に大きなポイントになりますし、僕としては松原と
吉川尚輝のさらなる飛躍に期待したいです。中軸には右の
坂本勇人、
岡本和真がいますから、左でなおかつ機動力も使える松原と吉川がさらに機能すれば、相手チームにとっては相当厄介な打線になるはずです」と期待を込めていた。
明るい未来が見えていたはずだが、ここから試練が待ち受けていた。亀井から背番号9を継承した22年だったが、春先から打撃不振で状態が上がってこない。
グレゴリー・ポランコ(現
ロッテ)、
アダム・ウォーカー(現
ソフトバンク)の加入により、スタメン出場が激減。50試合出場で打率.113、0本塁打、4打点、2盗塁と結果を残せず、背番号9は1年限りで剥奪に。支配下昇格した際につけた59に戻り、もう一度はい上がることを誓ったが、昨年も外野の序列をひっくり返せず一軍に定着できなかった。
春季キャンプから存在をアピールして
スポーツ紙記者は、「外野の守備能力の高さで言えば、チームトップクラス。ただ打たないと使ってもらえない立場です。彼には俊足という大きな武器がある。首脳陣が求めているのは振り回してアーチを放つより、泥臭い内野安打でもいいので1打席でも多く出塁することだと思います。このまま終わるのはもったいない選手。外野のレギュラーは3枠埋まっていないので、2月の春季キャンプから存在をアピールして欲しいですね」と奮起を促す。
松原も自分が置かれている立場を把握した上で、負けられない存在がいる。「ライバルは吉川尚輝です。あいつは僕のことなんて眼中にないと思いますけどね(笑)。同学年で、ドラフト同期で入団して、尚輝は本指名の1位、僕は育成5位。常に背中を追う存在でした。その後、僕も支配下になって一時はお互い一軍で切磋琢磨できていたんですが、今は僕がなかなか成績を残せていません。ポジションとかは違っても、お互い高め合っていきたい関係です。キャンプや遠征先などで、2人で食事に行ったときは年俸が高いほうが払うことにしているんです。昨年は僕が払っていましたけど、今はまた追い越されてしまいました。悔しいです。やっぱり自分が払うほうが、気持ちがいいですからね」と週刊ベースボールの取材で語っている。
聖弥、あんたは天才だから――。亀井コーチに恩返しをするためにも、今年は不退転の決意で臨む。
写真=BBM