実戦で力が引き出される左腕

即戦力左腕としてキャンプでアピールしている新人・又木
春季キャンプは新戦力のアピールの場となる。
巨人の新人で際立っているのが、ドラフト5位左腕の
又木鉄平だ。
今月7日のシート打撃。無死二塁でカウント1ボール1ストライクという想定で登板すると、
萩尾匡也を直球、
門脇誠をスラーブで連続三振に。不動の四番・
岡本和真はチェンジアップで遊飛に仕留めた。その後も
中山礼都をスラーブで空振り三振、
山瀬慎之助を内角に食い込む直球で遊ゴロ、
秋広優人をスラーブで見逃し三振と完ぺきな投球で強烈にアピール。11日の紅白戦に登板した際は失策が絡んで一死二、三塁のピンチを迎えたが、
ティマを空振り三振、
増田大輝を一直に仕留めて1回1安打無失点2奪三振。他球団のスコアラーは警戒を強める。
「実戦になると力が引き出される投手。直球は140キロ台中盤と決して速くないが、打者が立ち遅れているのを見ると想像以上に球のキレがあるのでしょう。スラーブ、チェンジアップの質もいい。まだ打者は調整段階ですが、制球力が安定していて四球で崩れる心配がない。力の抜けたフォームから快速球を投げ込む姿は、
今永昇太(カブス)と重なります。先発タイプだが救援でロングリリーフもできる。厄介な投手になりそうですね」
2人の“左腕コーチ”の存在
ドラフト5位と下位指名だが、即戦力という観点では上位指名の投手たちと実力は遜色ない。日本生命に所属し、社会人3年目の昨季は主に救援が持ち場だったが、ドラフト後に開催された日本選手権(京セラドーム)は、準々決勝・JR四国戦で先発して6回無安打無失点7奪三振の快投。長いイニングを投げる適正は十分にある。
巨人に入団して現役時代に球界を代表する左腕として活躍した
杉内俊哉投手チーフコーチ、
内海哲也投手コーチの助言を受けられることも、大きなプラスアルファになるだろう。杉内コーチはゆったりと脱力したフォームから140キロ前後のキレのある直球、スライダー、チェンジアップを織り交ぜて通算142勝をマーク。最多奪三振のタイトルを3度獲得するなど、通算2091回1/3を投げて2156奪三振を記録している。
“マタキの回またぎ”で躍動を

現役時代の杉内投手チーフコーチ。脱力したフォームから力のあるボールを投げ込んだ
週刊ベースボールが2013年に行った現役投手&コーチが選ぶ「理想的な投球フォームNo.1は?」という企画で、杉内コーチが1位に。自身の投球フォームについて以下のように語っている。
「マウンドで一番大切にしていることはリズム。気持ち良く、良いリズムで投げることが大切だと思います。フォームについて“ゆったり”という意識はしていませんが、『脱力』を心掛けてフォームを作ってきました。究極を言えば、キャッチボールの感覚。足を上げたときにグラブの中で一度手を叩くようにボールを出すのも、キャッチボール感覚で力を抜くためです。特に上半身には投球動作の途中で力を入れず、リリースの瞬間にすべての力を解放してやるのが理想。ゼロから、リリースの瞬間に一気に10に持っていきたいんですが、なかなかそういうわけにはいきません。なので、現実的にはセットに入ったときがゼロで、足を上げ始めて1、2、3……という具合に徐々に力を入れていき、リリースで10を迎えているイメージ。試行錯誤した結果、いまの“ゆったり”見える形が一番しっくりきたんです」
脱力したフォームから直球、スライダー、チェンジアップをテンポよく投げ込む姿は又木にも重なる。気後れせずに堂々とした立ち振る舞いで、メンタルも強い。昨年11月に東京ドームで開催された「ジャイアンツ・ファンフェスタ2023」。新入団選手発表で、「僕の名前は『マタギ』ではなく『マタキ』ですが、回またぎは得意なので、『マタキの回またぎ』で覚えてもらえたらうれしいです。応援よろしくお願いします」と挨拶し、ファンの心をつかんだ。
救援陣の立て直しが課題のチーム事情を考えると、今年は救援で活躍される可能性が高い。貴重な左腕リリーバーが「マタキの回またぎ」で躍動する姿を期待したい。
写真=BBM