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【高校野球】「大谷グラブ」で合同練習 「幸せになる=成功」を遂げる上で何ものにも代え難い1時間を過ごした市ケ尾

 

教えることは、学ぶこと


市ケ尾高の主将・杉山は、小学生を対象とした「キャッチボールプロジェクト」を通じて多くを学んだ[写真=BBM]


 市ケ尾高(神奈川)の硬式野球部(選手35人、女子マネジャー5人)が2月21日、近隣の横浜市立鉄小学校の学童保育(鉄小学校放課後キッズクラブ)を訪問。同クラブ主催のイベントである「市ケ尾高校野球部のみなさんと大谷翔平選手寄贈のグローブで野球をしよう」の合同練習を実施した。

 ドジャース・大谷翔平が全国の小学校に寄贈したグラブ(右利き用2個、左利き用1個)を、有効活用するための企画。高校球児が小学生50人に、野球の楽しさを伝えた。雨天のためグランドが使用できず、体育館で約1時間、キャッチボール、ストラックアウト、ミニゲーム(ティーボール)で触れ合った。

 教えることは、学ぶことである。

 市ケ尾高・菅澤悠監督は言う。

「私たちは野球で結果を残すことが目標ですが、部活動の意義は、それだけではありません。新1年生が入部するときに毎年言うんですが『幸せになる=成功』だよ、と。正しい取り組みに対して、正しい努力をする。野球を通じた(人としての)土台づくりの一環です。3月に入ってからも、少なくとも4校の小学校に出向きます。(3月中旬以降に開幕する)地区予選へ向けた練習も大事ですが、こうした活動を通じて得るものも大きいと思います」

市ケ尾高校野球部は「鉄小学校放課後キッズクラブ」と触れ合い、充実の1時間を過ごした[写真=BBM]


 旧チームから遊撃手の主将・杉山英志朗は、右胸に『えいしろう』と書かれたテープを貼った赤いTシャツを着て答えた。

「昨年のWBC世界一で、野球の認知度、魅力は上がってきていると思いますが、プレーする機会は限られているのが実情です。実際に野球人口は減っている。場所がない。(用具代の)お金がかかる。さまざまな問題を抱えていると思いますが、僕たちのこうした取り組みにより、子どもたちが野球に触れる一つのきっかけになってくれればうれしいです」

「普及・振興」に一役買ったわけであるが、指導役である杉山自身も勉強の場となった。

「ずっと、野球をやっていると、どうしてもネガティブになる。ふだんとは異なる環境、ピュアな子どもたちと接することで、野球そのものに対して、純粋に向き合えることができる。自分たちの活動にも生きてくる」

 市ケ尾高は2022、23年と春季県大会16強により夏のシード権(第3シード)を獲得。22年夏は4回戦、23年夏は5回戦進出と「公立の雄」として目覚ましい飛躍を遂げている。

「3年連続でシード権を獲得して、夏の神奈川大会ベスト8が目標です。強豪私学に勝つ」

 主将・杉山は決意を語った。「キャッチボールプロジェクト」による地域貢献で、今度は多くの子どもたちが市ケ尾高野球部の動向を気にするはず。まさしく、相乗効果である。

「イベント前と、終わった後では、子どもたちの熱気、笑顔は全然、違いました。野球の持つ力の大きさを、あらためて感じました」

 今回、初めて「大谷グラブ」に触れた。

「色が特徴的で、サインも入っている。カッコいいですね。軽いので、児童向きかと思います」

 相手に理解をしてもらうためには、魅力ある人間でなければ、心に響かない。野球は人がやるスポーツ。常日頃の姿勢が、プレーに出る。菅澤監督が高校3年間で生徒たちに求める「幸せになる=成功」を遂げる上で、何ものにも代え難い1時間を過ごしたのだった。

文=岡本朋祐
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