激戦区の正二塁手争い
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昨年はケガで1年を棒に振った田中。2年目の飛躍を目指す
中田翔、アレックス・ディカーソン、
中島宏之、
上林誠知と昨オフに強打者たちを補強した
中日。上林は右肋間筋損傷で2月の春季キャンプ中に戦線離脱となったが、中田、ディカーソン、中島は開幕に向けて順調に状態を上げている。その中で、最も気になるのが二遊間の定位置争いだ。
遊撃で評価を高めているのがドラフト3位の
辻本倫太郎だ。軽快なフットワークと堅実な守備で実戦向き。ハツラツとしたプレーはチームに活力をもたらしている。育成枠でキューバから加入したクリスチャン・
ロドリゲスも負けていない。華麗なグラブさばきと強肩は目を見張るものがあり、守備だけで言えばチームトップクラス。早期の支配下昇格が十分に考えられる。ドラフト2位の
津田啓史は右肩痛で出遅れているが、守備能力の高さに定評がある
龍空、複数のポジションを守れるオランド・
カリステが控えている。
二塁は
村松開人、
福永裕基、
石垣雅海、
阪神から新加入の
山本泰寛、
田中幹也と遊撃を超える激戦区だ。その中で、他球団の首脳陣は田中を絶賛する。
「新人の昨年にオープン戦で見たときから素材が違うと思いました。守備での打球判断、身のこなし、送球までの動作……。打撃も右打ちがうまく足が速い。野球センスが抜群で
広島の
菊池涼介と重なるんですよね。ケガなくコンディションを整えて試合に出続ければ、一流選手になる可能性を十分に秘めていると思います」
1年前の開幕前。二塁の定位置に最も近い存在だったのが、ドラフト6位で入団した田中だった。俊足を生かした広い守備範囲は他の選手と明らかに違い、打撃でもオープン戦で首位打者に立つなど攻守で最も輝いていた。だが、3月19日のオープン戦・
楽天戦(バンテリン)で牽制球に頭から戻った際に右肩脱臼で長期離脱。佐賀県内の病院で右肩鏡視下バンカート修復術を受けてリハビリに明け暮れ、公式戦で一軍デビューは叶わなかった。
昨年までのコーチの持論
同期入団の村松、福永が試合に出続ける光景を見て悔しい思いはあっただろう。二遊間は新たに辻本、津田が加入して競争が激化している。その中で田中はコツコツと歩みを進めた。二軍の教育リーグで攻守に復調をアピールすると、今月8日に一軍合流。手中にしかけて遠のいた定位置奪取に向けて燃えている。二塁でのスタメン起用が多いが、昨年まで中日の内野守備走塁コーチを務めた
荒木雅博氏は違った見方を示している。週刊ベースボールで、田中の起用法について以下のように持論を語っている。
「誰もが田中選手は肩の故障もあって二塁でと言いますけど、僕なら遊撃で使いたい。遊撃は送球がすべて順方向になるので、併殺などで逆方向も入る二塁よりも肩への負担は少ない。三遊間の深い当たりまで強肩を見せてアウトにする必要はなく、それ以外を確実にアウトにしてくれれば十分。あれほど足を使えて守備範囲の広い選手はいないですから」
「右肩の状態を考えればダイビングはできない。二塁を守れば一、二塁間を抜く打球が多く、そこは一、三塁を防ぐ意味でも止めたいですから、どうしても飛び込んでしまいがち。であれば遊撃にしてダイビングは禁止と告げて足で守れと言います。それでもほかの選手よりも守備範囲は広いと思います」
遊撃も守り慣れたポジション
田中は二塁だけでなく、遊撃も守り慣れているポジションだ。亜大では1年春に二塁で定位置を獲得したが、2学年上で遊撃手を守っていた
矢野雅哉(広島)が卒業後は遊撃に回り、ベストナインを3度受賞している。
荒木氏は「昨年までチームでコーチをしていましたから、やはり関わった選手には全員に頑張ってもらいたい。みんなそれぞれに良さがあるわけですから。だからあとはどれだけ自分をアピールしていけるか。他人を蹴落としてでも生き残っていくのがプロの世界。だから与えられるのではなく自分からチャンスをつかみにいかないと。それを誰がつかみ、ものにしていくのか、またチームが誰を起用し、どう使っていくのか。そこを楽しみにしています」と期待を込めている。
荒木氏と
井端弘和・侍ジャパン監督は現役時代に「アライバ」のコンビで、鉄壁の二遊間を形成。相手バッテリーが神経を消耗するチャンスメーカーとしても活躍した。優勝するチームはセンターラインが強固だ。田中は定位置争いから抜け出し、チームの救世主になれるか。
写真=BBM