注目された強打者との対決

阿南光高のエース・吉岡は気迫ある投球で、4失点完投。32年ぶりの甲子園勝利の原動力となった[写真=牛島寿人]
第96回選抜高校野球大会▼第2日
【1回戦(3月19日)】
阿南光(徳島)11-4豊川(愛知)
阿南光高の146キロ右腕・吉岡暖(3年)と、大会屈指の左の強打者である豊川高・モイセエフ・ニキータ(3年)の対戦が注目された。
吉岡にとっては、勢いに乗せてはいけない相手。「他の打者とはオーラが違う。抑えたい気持ちが強かった」。相当、意識していた。
「1打席、1打席、配球を変えていきながら投げていました」
第1打席は真っすぐを軸に攻めて、追い込んでからは高めに浮かせたボールで見逃し三振。第2打席は一転して、初球からカーブを3球続けた。左打席のモイセエフを惑わせると、最後はフォークで空振り三振。吉岡が2度の対戦で、完全に優位に立った。第3打席は真っすぐを詰まらせて右飛。スイングに力はあったが、今大会から導入された低反発の新基準バットで、打球は伸びなかった。
5対1でリードした8回裏、第4打席では一死一塁から右翼ポール際に2ランを浴びた。
「実力不足というか、とても良いバッターでした。1本は打たれるかな? と思っていましたが、本塁打はビックリしました(苦笑)」
これで2点差(3対5)。9回表、味方の大量援護があり、11対3で最終回の守りを迎えた。粘りを見せる豊川高は1点を返し、なおも、二死満塁で打席はモイセエフである。
「気持ちで負けないように、強気のピッチングを心がけました」。吉岡は初球、内角真っすぐでストライクを奪うと、2球目はカーブでタイミングを外し、3球目のフォークを振らせて三振に斬った。学校統合前の新野高として出場した1992年以来、32年ぶりの初戦突破を決めたのである。
二段モーションの特性を生かして
モイセエフとの注目対決を制した吉岡は、11奪三振で4失点完投勝利。押すときは押す。引くときは引く。これぞ、ピッチングの醍醐味を見せた。「ペース配分を考えながら、力を入れるところは入れ、抜く場面では抜く。自分の中で、考えている感覚が良かった」。140キロ中盤のストレートに強弱をつけ、緩急自在のカーブ、落ちる球種であるフォーク、カットボールの精度も抜群であった。
また、今春から解禁された二段モーションの特性を生かして、マウンドで躍動。軸足に体重を乗せ、左足を上げてから、いったん静止し、勢いのあるボールを投げ込んだ。
日本一を遂げた中学時代(ヤングリーグ・阿南シティホープ)からバッテリーを組む正捕手・井坂琉星(3年)の好リードもあり、相手に考えさせないクレバーな投球が光った。
「次の試合は、最少失点で抑えられるようにしたい。(阿南シティホープに続いて)もう1回、全国優勝できたらいいです」
2回戦は近江高を延長10回タイブレークの末に制した、熊本国府高と対戦する。「気を引き締めて臨みたい」(吉岡)。暖と書いて「はる」と読む。徳島の県立校のエース・吉岡が春の主役の一人に躍り出た。
文=岡本朋祐