ヤクルト浮上のキーマン

6月9日の日本ハム戦でも7回無失点と好投したヤフーレ
借金6を抱えている
ヤクルトだが、交流戦は6勝4敗2分と奮闘。首位・
広島に5.5ゲーム差と大きく開いていない。打撃好調の
長岡秀樹、
村上宗隆、
ドミンゴ・サンタナのクリーンアップは破壊力十分で、チーム総得点はリーグトップの204得点だ。投手陣を立て直せば十分に戦える。その中心として期待されるのが新外国人右腕のミゲル・ヤフーレだ。
今季は10試合登板で4勝5敗、防御率2.89。6月は1日の
楽天戦(楽天モバイル)に登板し、7回途中6失点と自己ワーストの投球内容で悔しい思いをしたが、9日の日本ハム戦(神宮)は7回6安打無失点。相手左腕・
加藤貴之と緊張感あふれる投手戦で白星はつかなかったが、1対0の完封勝利に大きく貢献した。
来日初登板は3月31日の開幕3戦目・
中日戦(神宮)。6回6安打2失点の投球で来日初白星を飾った。「ウイニングボールは家に飾りたい。スワローズのファミリーになれてうれしい。引き続き勝てるように頑張ります」と宣言。日本語で「ペコちゃんです。頑張ります」と誓い、スタンドから温かい拍手が送られた。
3、4月は開幕3戦3勝と最高のスタートを切るなど4勝1敗と好スタートを切ったが、5月は0勝3敗。だが、月間防御率1.74という数字が示すように投球内容は安定していた。5月10日の
巨人戦(神宮)は7回1/3を2失点、18日の
阪神戦(甲子園)は6回1/3を1失点、25日の中日戦(バンテリン)はと7回1失点といずれもクオリティースタート(先発6回以上で3自責点以下)を達成したが、この3試合で22イニング無得点と、打線の援護がまったくなかったため白星から遠ざかった。
頭脳的な投球スタイル
その投球は「頭脳的」という言葉がしっくりくる。直球は140キロ台と決して速くないが、チェンジアップ、ツーシーム、カットボール、ナックルカーブ、スライダーと多彩な変化球を織り交ぜ、凡打の山を築く。他球団の首脳陣は「ストライクゾーンにテンポよく投げ込んでくるが、手元で球を動かしてくるので打ち気にはやると術中にハマる。投球スタイルが
ディッキー・ゴンザレスと重なります。2ケタ勝利は十分に勝てる投手だと思います。ヤフーレのペースで気持ちよく投げさせないために、今後の対戦で工夫が必要になってくる」と警戒を強める。
ゴンザレスはヤクルト、巨人、ロッテで計10年間プレーし、通算143試合登板で45勝41敗、防御率3.55をマーク。巨人時代の2009年には15勝2敗、防御率2.11で最高勝率(.882)のタイトルを獲得している。直球は140キロ前後だが、右打者の懐に食い込むツーシームと外角に逃げるスライダーを抜群の制球力で投げ分けていた。ヤクルト時代から温厚な性格で知られ、コーチの助言に耳を傾けて日本球界で活躍したいという思いが伝わってくる投手だった。
さらに増していく安定感
ヤフーレもゴンザレスと同様に制球力を武器に緻密な投球を見せるが、グラウンドを離れると「笑顔がかわいい」と人気を集め、
伊藤智仁投手コーチからつけられた愛称は「不二家」の人気キャラクター・ペコちゃん。来日初勝利後に神宮外苑のクラブハウスを訪れた同社の担当者からケーキとお菓子をプレゼントされ、「とてもうれしい。日本に来て、野球はすごく影響力があるというか、野球ファンが多いんだなと。チームの一員になれている実感もあるし、もっと試合に勝っていきたい」と気持ちを新たにしていた。
ゴンザレスは5年間で2ケタ勝利を挙げられなかったが、巨人に移籍初年度の09年にブレークした。先発で計算できるヤフーレも日本球界で登板を重ねることで打者の傾向をつかみ、安定感がさらに増すことが期待される。今オフ、複数球団による争奪戦の可能性が十分。ヤクルトも来季以降の契約延長を当然考えるだろう。エース格になっている右腕はV奪回に向け、白星を積み重ねる。
写真=BBM