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チームが求める打撃を…「評価されてこそ起用してもらえる」大谷翔平の打撃美学

 

あえて打撃に注文をつける指揮官


チームに求められている打撃を模索し続けている大谷


「新チームで自分の打撃がどう見られているか? チームとして必要とされている打撃と自分の打撃を相談しながらやっていくことは大切なので」

 今季、大谷翔平が試合後の言葉の中で何度か口にした言葉だ。

 名門ロサンゼルス・ドジャースに移籍して迎えた2024年シーズン。歴史と伝統、そして絶大な人気を誇り、熱烈なファンが支える人気球団。試合前後の彼を見ていると、自らが求めていた場所でのやりがいや醍醐味を日々感じながら過ごしているように見える。それと同時に想像を超える重圧、重責とも向き合っていることも感じる。

 ケガ人が増え始めた、この6月。ドジャースの窮地を伝えるメディアが目立つものの、首脳陣たちは選手層の厚さ、チーム力の高さにある程度の自信を持つ。そして、現有戦力となるロースターに入る選手たちをさらに厳しく鼓舞し、切磋琢磨を求め、チーム内競争を高めていく。

 事実、ドジャースのロバーツ監督は大谷の打撃にあえて注文を付けることがある。

「ここ最近の大谷は身体の開きが早いよね。だから打ち損じのファーストゴロ、セカンドゴロが多い。同じ結果になっている。振り過ぎているように見えるよ。もっとベターな方法論はあるよ」

 これは現地時間6月15日のロイヤルズ戦でノーヒットに終わった翌朝の言葉だ。選手を預かる身として責任感を持って気付いたことを忌憚なく口にする名将。もちろん直接アドバイスを送ることは多々あるが、大谷を進化させ、成長させるためにメディアを通してでも叱咤激励する。

 死球を受け、不運の離脱となってしまったが、MLB界のスターとして君臨してきたムーキー・ベッツでさえもチームの方針に必ず耳を傾け、首脳陣の評価に応えるために毎試合前のように、早出で打撃練習と守備練習を黙々と行う。離脱したあのデーゲームの朝も、前日はナイターゲームにもかかわらず誰よりも早くグランドに出て、特打と特守を行う姿があった。

逆方向へのバッティング


チームメートと切磋琢磨しながら高みを目指している


 その6月16日、ロバーツ監督が報道陣の前に姿を現す1時間ほど前に大谷はロッカールームで準備を行い、データ資料と映像資料を手にし、食事スペースへと向かって行った。打撃の方向、自分の理想とする打撃を追求する中でも大谷は常にチームの評価と自分の打撃を照らし合わせ、答えを出しにいく。打席ごとに相手投手の配球データを確認し、狙いたい球種、コースを確認する。そして、打球方向を意識しながらネクストバッターズサークルでイメージをふくらませながら打撃フォームの微調整を行う。結果、この日は今季初の2打席連続ホームラン。第1打席はロバーツ監督が求めていた逆方向への第18号だった。

「あの方向に長打が出るのは良い傾向」と本人も手ごたえを口にした。そして第2打席は外からのスライダーに対して、体のタメを作っての右中間中段へ、高々と打ち上げる完壁な一発。18日のロッキーズ戦では今季最長となる145メートルの超特大弾が飛び出し、そこまでの3試合は13打数7安打3本塁打5打点。“ミスタージューン大谷”が今年も戻ってきた形だ。

 そして何より7安打のうち打球方向がセンターから左の安打が5本(うち長打が3本)とロバーツ監督が指摘する身体が開き、引っかけての凡打が減少。右の壁を作っての逆方向への会心の打球が一気に増え、指揮官の要求に見事にこたえた形だ。

「16日の左中間への本塁打、そして今日のセンターへの本塁打も今まで見たことがない打球だった。言葉にならない、別次元だ」とロバーツ監督はこの3試合の大谷打撃に最大の称賛を送った。

大谷を支える裏側の努力


 世界のスポーツ史に残る大型契約を結んだ大谷。ケガで長期離脱となった山本由伸ももちろん同じ大型契約だが、次も、明日も必ず使ってもらえると彼らは思っていない。高次元の中で激しい競争に打ち勝つために日々、戦っている。想像を絶する競争の中で戦っている。

「由伸は1試合1試合、人一倍の頑張りをしているし、そばで見ていてそう思う。だから早い段階で、いい状態で投げられるようにサポートしたい」と大谷は山本を労った。ドジャースのチームメートは「翔平を支えるのは見えていない裏側の努力」と彼を評する。

「チームに評価されるために自分の理想とチームが求める打撃を融合させる」。慢心なんて毛頭もない。今まで以上の重圧と重責と向き合う。世界唯一無二のアスリートとなるためにあえてドジャースを選んだ。だからこそ、今季の大谷翔平の打撃美学はさらに研ぎ澄まされるであろう。

文=田中大貴 写真=Getty Images
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