打者を幻惑させるシュート
今季も味のあるピッチングを見せている西勇
リーグ連覇を狙う
阪神。勝負の夏場以降は経験豊富なベテランの存在が心強い。先発ローテーションで安定した投球を続けるのが、プロ16年目の
西勇輝だ。
近年は150キロを超える直球を武器に力でねじ伏せる投手が増えているが、西勇の投球スタイルは一線を画す。直球の平均球速は140キロ前後と決して速くないが、スライダー、シュート、チェンジアップ、カーブと縦横の変化、奥行きを使って凡打の山を築く。特に打者を幻惑させるのが、直球と見間違う球速で右打者の懐に食い込んでくるシュートだ。内角高めに浮き上がるような軌道があれば、ツーシームのように沈む変化も。この球種を自由自在に操れる投手はなかなかいない。左打者にも有効で、スライダーと横の揺さぶりで強打者たちを手玉に取っている。西勇は週刊ベースボールの企画「持ち球リレートーク」で、自身のシュートについてこう語っている。
「この球種は、1年目から少しだけ投げていただけで、そこまで主戦級の変化球ではなかったんです。
オリックス時代の7年目か8年目の交流戦での
中日戦(2016年6月7日=京セラドーム)でした。この試合、真っすぐの調子が悪くて、捕手の若月(
若月健矢)と話し合い、真っすぐのサインですべてシュートを投げようということになり、ここで感覚をつかみましたね。握りは一般的で縫い目に中指、人さし指を掛けます。意識的にどういうボールを投げ込みたい、というイメージがあるので、その投げたいコースや軌道によって、指でのボールの使い方が変わっていきます」
「右打者の胸元に食い込ませたい、と思って投げるときには、2つの指を押し出していくような感覚で投げます。イメージで言うと、投げる瞬間に右上に向けて指を投げていくつもりでリリースしていきます。どうしてもリリースしたあとは、腕が内旋して下に向かいますが、それを腕全体で上に投げるような意識を持つのです。低めに落としていくときは、今度は手首を寝かせるイメージです。実際のシュートの握りで普通に真っすぐと同じように投げた場合には、少し落ちながら右打者の内角に入っていきますが、手首を寝かせることで、その落ち幅を大きくすることができると思って投げています。僕自身ツーシームも投げますが、使い方がいろいろとあるので、シュートが内角を突く球種とは限らないんです」
打者を打ち取る術を知っている右腕の貢献度は計り知れない。昨年大ブレークした
大竹耕太郎、
村上頌樹も決して球が速い投手ではなく、投球術と制球力が生命線の投手だ。西勇はそれぞれの投手を観察しながら、自らアドバイスを求めてきた大竹に対して助言を送り、村上にはタイミングを見計らって話しかけている。マウンド上での気持の整理の仕方、1年間マウンドに上がり続けるための方法論を惜しみなく伝えた。全てはチームが勝つために――。昨年38年ぶりの日本一に輝き、ビールかけで勝利の美酒に酔いしれる中で、若手たちをねぎらう西勇の姿があった。
通算2000投球回も達成
もちろん、まだまだ先発ローテーションの座を譲る気はない。今季は13試合登板で3勝3敗、防御率1.66。打線の援護に恵まれず勝ち星は伸びていないが、試合をきっちり作っている。7月14日の中日戦(バンテリン)では6回5安打1失点の粘投。4回無死二塁では
福永裕基に17球粘られたが二ゴロに抑えると、三塁ベンチへ向かい、トレーナーがペットボトルを持って駆け寄って水分補給を行った。その後に一死一、三塁のピンチを迎えたが、
高橋周平を投ゴロ併殺に仕留めた。打撃でも奮起し、3回一死三塁の好機で先制の中前適時打。今季4勝目はならなかったが、チームは延長戦の末に6対2で振り切り、同一カード3連敗を免れた。
6月21日の
DeNA戦(甲子園)で史上94人目の通算2000投球回を達成したが、通過点に過ぎない。プロ3年目から13年連続100イニング投げ続けている右腕には、「無事是名馬」という格言が当てはまる。これからもチームの勝利のために、先発で稼働し続ける。
写真=BBM