成長の跡を見せている投球

後半戦で先発ローテ定着を狙う井上
4年ぶりのV奪回を目指す
巨人。前半戦は首位で折り返し、後半戦初戦となった26日の
DeNA戦(横浜)は5対2で快勝。貯金を今季最多の9に増やした。勝負の夏場は若手の台頭が期待される。その筆頭格が高卒5年目の
井上温大だ。
前半戦は先発、中継ぎで計15試合登板し、3勝4敗2ホールド、防御率3.60をマーク。左腕から最速153キロを計測する直球が大きな武器で、課題だった変化球もスライダー、フォーク、カットボール、ツーシームの精度が上がってきている。期待の若手成長株として毎年のように名前が挙げられ、ファームでは格の違いを見せていたが、一軍ではなかなか結果を残せなかった。変化球でストライクが取れず、直球で痛打を浴びる。ファームでは不利なカウントでも直球で空振りやファウルを奪えたが、一軍の強打者には通じない。試合中の修正力も課題だった。
ただ、今季の井上は成長の跡を見せている。象徴的なマウンドが、地元・群馬で凱旋登板となった7月3日の
中日戦(前橋)だ。立ち上がりは制球が上ずっていたが、イニング間に修正して6回まで無四球の快投。走者を背負っても崩れなかった。6回に一死一、三塁のピンチを招いたが、
カリステをフォークで三ゴロ併殺打。7回は一死から初四球で初出塁を許したが、
木下拓哉をフォークで遊ゴロ併殺に仕留めた。8回の無死一塁の場面も
宇佐見真吾を直球で二ゴロに打ち取り、3イニング連続の併殺打。力勝負ではなく、「大人の投球」で3勝目を挙げた。
高めにホップするような軌道の直球
他球団の首脳陣は「昨年までは常に目いっぱい投げていた印象だったが、今年は打者を見て落ち着いて投げているイメージがあります。変化球でストライクを取ることに苦しまなければ、これぐらいの投球をしていても不思議ではない。特に厄介なのが高めにホップするような軌道の直球ですね。
今永昇太(カブス)と重なります」と分析する。
井上がお手本とする左腕が今永だ。22年のオフに自主トレに弟子入りした際は、多くのことを学んだ。週刊ベースボールのインタビューで直球に対する思いを聞かれ、以下のように語っている。
「球速にはあまりこだわっていないですね。やはりキレが大事だと思います。ただ回転数とかも見るんですけど、別にそこを上げようと思ってやっているわけではないので。そこが良くても悪くても、試合で抑えられる場合がある。だから球速や回転数を突き詰めるのではなく、どうしたら打者を抑えられるかを考えながらやっていきたいです」
メジャーで活躍する今永

メジャーで持ち味を発揮している今永[写真=Getty Images]
球速ではなく、打者を抑える直球の質を追い求める。DeNAから昨オフにポスティング・システムでカブスに移籍した今永はそのスタイルを体現している。140キロ台後半の高めに浮き上がる直球を効果的に今季18試合登板で8勝2敗、防御率2.86。メジャー移籍1年目で球宴の舞台に登板した。DeNA時代は決して順風満帆だったわけではない。プロ7年目の22年。左肩のクリーニング手術から復帰した21年のシーズン中に、直球に対しての考え方が変わったことを明かしていた。
「今は真っすぐで抑えてやろうとか、そういう考えはなくて、強引に力勝負だけに頼らない姿勢が
伊藤光さんの配球とあいまってハマっているのかもしれません。それは『よし』とする部分だと思います。ストレートがまだまだと思っているからこそ丁寧な投球につながったり、『この打者は強引に勝負したら打たれるな……』と考えられるようになってきています。手術前までは元気に腕を振れば、抑えられたかもしれないけど、今はそうじゃないことを自分が自覚しています。冷静に投げられている部分はあるのかなと思います」
井上も殻を破るためには、打者を見る洞察力を磨き、良いパフォーマンスの再現性を高めることが重要になる。7月17日の
阪神戦(東京ドーム)は5回途中3失点。ボール球先行の投球で、最後までリズムを作れなかった。先発ローテーションに定着するためには、状態が悪くても試合を作る能力が必要になる。
27日のDeNA戦(横浜)に先発する。将来を嘱望される左腕にチームを勢いづける快投を期待したい。
写真=BBM