大スランプも決勝で爆発

三菱重工Eastは初優勝。2本塁打を放った主将・矢野は黒獅子旗を手にした[写真=矢野寿明]
【第95回都市対抗野球大会】
7月30日 東京ドーム
▽決勝
三菱重工East3-1JR東日本東北
第95回都市対抗野球大会12日目。日本一を決める決勝は三菱重工East(横浜市)とJR東日本東北(仙台市)の顔合わせで、どちらが勝っても初優勝となる対決となった。勝負を決めたのは三菱重工Eastの主将・矢野幸耶(北陸大)だった。
試合はド派手な一発から始まった。1回裏、一番・遊撃の矢野が4球目のチェンジアップをとらえ、ライトへ先頭打者本塁打。
「決勝戦は勢いだと思っていたので、三振でもいいと思ってフルスイングしました」
今大会はここまでの全試合でトップバッターを任されてきが、4試合通算で10打数ノーヒット。大スランプに陥っていたが「チームメートが声を掛けてくれましたし、二、三、四、五番と皆、仕事をしてくれていたので『どこかで返さないと』と。そして、自分が活躍するかどうかではなく、とにかく気持ちで勝とうと思っていました」
矢野のバットは止まらない。3回裏にはライトのポール際に飛び込む2打席連続のソロ弾を放った。
「1打席目はホームランを狙っていたんですけれど、2打席目はたまたま。ツーシームだったんですが、うまく体がクルッと回って反応してくれました。2打席連続で打ったのは人生で初めてだったで、ベースを回っているときは何が起こったかわからなかったです」

1回裏に先頭打者本塁打を右翼席へ放つと[写真]、3回裏の第2打席でも右越えソロ。5回裏には適時打も放ち、この決勝で4安打3打点の活躍を見せた[写真=矢野寿明]
さらに、第3打席は5回裏、一死二塁のチャンスで打席に立つと「スライダーが得意なピッチャーなので変化球を待っていたのですがスムーズにバットが出ました」とアウトローのスライダーを逆らわずに逆方向の左中間へはじき返す適時打。1点差に迫られた直後だっただけに価値ある大きな一打となった。
8回からは大会の最優秀選手に送られる橋戸賞を受賞した本間大暉(専大)が登板し、2回無失点。3対1でJR東日本東北を下し、三菱重工Eastが悲願の初優勝。矢野はチームの3得点を一人でたたき出す活躍を見せた。
「今日はラッキーボーイでした」

東京ドームを舞った主将・矢野。スタンドの応援団とともに歓喜を分かち合った[写真=矢野寿明]
場内インタビューでは「優勝したぞー!」とスタンドに向かって声を上げ、喜びを爆発させた矢野。実は決勝が行われた7月30日は30歳の誕生日。「日程を見たときに、勝ち上がっていけば決勝が誕生日だと分かっていたので、それがプレッシャーになってノーヒットだったのかもしれません。ただ、決勝も『ノーヒットでいい。その代わりに、チームへ流れを持ってこられるスイングをしよう』と思っていたのですが、今日はラッキーボーイでした」
矢野の弟は
広島で活躍している
矢野雅哉。決勝前夜には電話で話をしたそうで「弟から『打たなくていいから優勝しろ』と言われたので、『生意気だな』と返しました。決勝は自分が打って勝ったので、もう何も言わせません」と笑顔を見せた。
今季からチームの主将を務めているが、高校、大学時代もキャプテン。「チームがダメなことをしていたら怒れるので、任されているのだと思います」。今回は佐伯功監督(東北福祉大)から主将に指名されたそうだが「昨年までキャプテン・平野智基さんがチームの土台を作ってくれていたので、あとは自分のプレーと声の推進力で引っ張っていくだけでした」と話し、佐伯監督も「今年からキャプテンになったのですが、しっかりとチームをまとめあげてくれました」と認めている。
「もともと技術は各個人が持っていたのですが、今年はメンタル面が成長したと思います」と優勝の理由を挙げた矢野。今後に向けて「すぐにJABA長野大会がありますし、秋の日本選手権もやるしかない」と二大大会の連覇を目標に掲げ、常勝チームを目指していく。
文=大平明