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全早稲田戦

全早稲田戦で“引退登板”の佐竹功年 「あらためて、野球を続けてきて良かった」

 

マウンドで闘争本能にスイッチ


全早稲田戦後は両チームから胴上げされた[写真=矢野寿明]


【全早稲田戦】
8月10日 ベーマガSTADIUM
早大9-3稲門倶楽部

 40歳まで、現役投手としてプレーできた要因。下半身強化を怠らなかったからだ。誰よりも走った自負がある。

 トヨタ自動車・佐竹功年が今夏の都市対抗限りで引退した。前回王者として挑んだ開幕戦、沖縄電力との1回戦では救援で勝利投手。三菱重工Westとの2回戦では登板機会なく、チームも敗退し、大会連覇を逃した。「敗退」はイコール、佐竹の現役引退を意味していた。7月25日のことである。

 以降、一度も体を動かさないまま、全早稲田戦に参加するため、昨年に続き、新潟・南魚沼に乗り込んできた。「自分を作ってくれたのは早稲田」と母校に相当な愛着があり、当初は「引退報告」という腹積もりでいた。

 しかし、周囲が許してくれなかった。「最後の雄姿が見たい」との声が相次いだ。「雰囲気的に投げないといけないようなムードになり……」。覚悟を決めたが……。「2週間、まったく何もしていない(苦笑)。相手に失礼のないように。迷惑をかけないように」と、午前11時のプレーボールに合わせ、入念なウォーミングアップを経て、試合に入った。

独特なテークバックから力投。この日も最速142キロと40歳とは思えないボールの質だった[写真=矢野寿明]


「(社会人で19年)積み重ねてきた結果かな、と思います」。マウンドに上がると、闘争本能がスイッチ。早大の四番・印出太一(4年・中京大中京高)に先制2ランを浴びたものの、2失点でしのいだ。この日の最速は142キロ。チェンジアップら変化球もキレも抜群で、とても引退選手のボールには見えなかった。1回表の先頭打者で、空振り三振に終わった尾瀬雄大(3年・帝京高)は言った。今春の東京六大学リーグ戦の首位打者である。

「すごかったです。普通の投手とはボールの軌道がまったく違う。ボールだと思って見逃がした2つの低めストレートで2ストライク簡単に追い込まれ、3球目はカットボールで空振り三振。昨年も三振だったんですが、今年も完敗です。今の東京六大学で対戦している投手の中でも、佐竹さんは誰よりもボールが伸びてくる。1打席だけで攻略するのは難しいです。現役引退? まだまだできると思います。試合後は佐竹さんから𠮟咤激励をいただきました。ありがたいことです」

 1回2失点で降板後は、三塁ベンチで、後輩たちのプレーに見入った。稲門倶楽部は3対9で敗退。試合後の閉会セレモニーでは場内から佐竹の現役引退と数々の功績が紹介され、早大・小宮山悟監督から花束が手渡された。

「一選手に……。ありがたいですね。あらためて、野球を続けてきて良かった」

9月からスポーツ関連の部署に異動


 都市対抗優勝2度、社会人日本選手権優勝6度。年間表彰でも2度(2014、16年)にわたるベストナイン、最多勝利投手賞、最優秀防御率賞の3冠に輝いた。都市対抗初制覇へと導いた16年はMVPにあたる橋戸賞を受賞。侍ジャパン社会人代表でも長く活躍し、社会人球界のまさしくレジェンドだった。

 今年1月、都市対抗限りでの現役引退が発表された。社会人野球は一般的に秋の社会人日本選手権がシーズンの一区切りとなるが、佐竹は長年の功績が認められ、前年覇者で推薦出場が決まっていた都市対抗で「男の花道」が用意されたのである。最後まで全力を貫いたからこそ、2回戦敗退後は涙を流した。

 そして、最終マウンドは母校・早大を相手にした全早稲田戦。試合後に本音を語った。

「もう、一歩も走りたくない(苦笑)。ウエートトレーニングはやるかもしれませんが、ランニングだけは……もう……」

 現役の晩年は「おじさんパワーで、頑張ります!!」と、いつも笑顔で語っていた。弱音を吐くことは、一切なかった。誰よりも汗を流し、走り込みの量が投球の支えだった。頼りになる「ミスター社会人野球」だった。

 早大・小宮山監督は「社会人で19年もプレーできたのは、努力の賜物。早稲田にとっても、シンボリックな存在でした。今後も社会人の顔として、さまざまな活動をしていくと思いますが、日本の野球界のために尽くしてもらいたいと思います」とエールを送った。

 佐竹は「サラリーマンですから、自分で決められることではない。9月からスポーツ関係の部署に異動します。その後のことは分かりません」と、あくまでも野球部の現役引退は「社内の人事異動」と強調する。とはいえ「恩返し」への思いは、当然ある。

「仮に野球関連のお話をいただいたときには、全うできる準備だけはしておきたい。指導者? やれと、言われれば、やります。社会人として新しい立場になり、選手から離れて、さまざまな勉強をしていきたいと思います」

 アマチュア球界の宝は影響力抜群。第二の人生で活躍する場は、たくさんあるはずだ。

文=岡本朋祐
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