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戦後プロ野球史発掘

抗議上手な名将と下手くそな名将/『戦後プロ野球史発掘』

 

 プロ野球の歴史をつくった当事者たちが赤裸々に語る『戦後プロ野球史発掘』。知る人ぞ知るシリーズからネタを拾ってみた。

鶴岡流、退場回避術



 連載第21回は、ともに名審判、島秀之助、二出川延明とセ・リーグ会長・鈴木龍二、評論家・大和球士の登場。審判をめぐる話題を話している。

 日本プロ野球の退場第1号は、1936年11月20日の阪神-東京セネタース戦の東京セネタース、苅田久徳で、宣告は二出川だった。

 サードでのアウトのジャッジに激高し、二出川球審に暴行。二出川が告げたことになっている。ただ、実際はちょっと違うという。以下は二出川。

「僕はアウトと言ったんですよ、問題なく。そして一間ばかりホームのほうに帰ろうと思ったらドーンと後ろから僕を突くのですよ。バカヤローと僕も突き返した。見たら苅田なんだね、それだから『無礼者』と(笑)。そうしたら苅田はブーブー言うから『黙って帰れ』と言ったら、そのままベンチに帰ったですよ。それでバットとグラブを担いでベンチから出ていく。僕は、『おい、おい、苅、どこに行くのだ』と言ったら、『何言ってんだ。今あんた退場と言ったじゃないか』。こっちは退場と言ったつもりはないんだけれど、そのまま帰ってしまったから退場にしましたよ、真相は(笑)」

 とのこと。

 また、二出川が「やりいい」と言った監督が、南海・鶴岡一人監督だ。再びその言葉を紹介する。

「一番いいのは鶴岡さんですね。たとえば、当然退場させるケースが起こった。その退場一歩手前で退場をなくさせる非常にいい演技を持っているのだ。守っていて森下(森下整鎮。南海)がサードの判定に怒って、アンパイアに暴行に近い動作を取ったのですよ。当然退場ですよ。でも、間一髪、鶴岡がファースト側のダグアウトからダーッと飛んできたと思ったら、いきなり森下をひっぱたいたんですよ。そうして『お前なんたるバカなことをするか』と言って怒ったものだから、退場させようと思った審判が退場させられなくなった(笑)」

 これは貴重な選手を退場で交代させたらもったいないという思いに加え、50年、日没コールドに抗議した際、ファンが暴動。当時の小原社長から「大阪球場では絶対に騒ぎを起こしちゃいかん」と言われたこともあったようだ。形勢を見て、これは抗議しても損と思ったらあっさり引き揚げるタイプでもあった。

 一方で評判が悪かったのは阪神ほかの藤本定義監督。

二出川「藤本さんはちょっと意固地になる場合がある」

鈴木「いじめてやろうという小姑根性みたいなあれがある」

 二出川という方は、自分のジャッジが間違っているのが分かる写真を見せても「写真が間違っている」と言い放った方。いまのリクエストの時代にいたらどうなっていたのだろう。
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