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2024夏の甲子園

【甲子園】早実OB荒木大輔氏が見た大社対早実「気持ちがぶつかり合う激闘に胸が熱くなった」

 

 野球解説者の荒木大輔氏(元ヤクルトほか)が8月17日、阪神甲子園球場に訪れた。早実時代は1年夏から3年夏まで5季連続甲子園出場し、通算12勝(5敗)を挙げた。開場から100年を迎えた「聖地」で母校・早実の試合を観戦。9年ぶりの準々決勝進出をかけた大社との3回戦を、評論してもらった。

素晴らしかった大社の一体感


早実OBの荒木大輔氏は甲子園で母校の試合を観戦した[写真=牛島寿人]


【第106回全国高等学校野球選手権大会】
3回戦 8月17日 第4試合
大社(島根)3x-2早実(西東京)
(延長11回タイブレーク)

[荒木氏が見た準々決勝]
 甲子園というのは、力を引き出してくれる場所。スタンドからの大歓声、後押しもあり、高校球児が人間として成長する場所であることを、あらためて感じた一戦でした。

 両校の勝利へ向けた執念、気持ちと気持ちがぶつかり合う激闘に、胸が熱くなりました。まずはエース・馬庭優太投手をもり立てた、大社高校の一体感は素晴らしかったです。

 1対1の7回表、味方中堅手の後逸により勝ち越しを許しましたが、引きずることなく、後続を抑えました。全員でミスをカバーして、9回裏にスクイズで同点。最後は11回裏、馬庭投手のサヨナラ打で死闘に決着がつきましたが、試合後、早実・和泉監督がコメントしていたように「魂」がにじみ出ていました。149球。エースしてマウンドを守るという気迫が、体全体から感じました。その背番号1の背中が、チームに勇気を与えたのです。

 技術的にもコントールが安定しており、いつでもストライクが取れるのが強み。球場表示以上の体感速度があり、緩い変化球を巧みに操る。テークバックが小さいショートアームで、やや腕が遅れて出てくる。一つ間が入り、打者はタイミングを取るのが難しいように見受けられました。報徳学園、創成館、早実を制しての93年ぶりの8強進出。誰もが当たり前のように言いますが「気持ちで抑える」というピッチングの原点を見た気がします。

 一方、早実の「粘り」も、見ごたえ十分でした。西東京大会では初戦(3回戦)から苦しみ、負ければ終わりという状況の中、スリリングな公式戦を重ねるごとに、チーム力が上がっていった印象があります。

 甲子園でも相手に先制されても「耐える力」がついた。その象徴が2年生エース・中村心大投手です。鶴岡東との2回戦では延長10回、1対0でシャットアウト。大社との3回戦でも、攻守で我慢するスタイルが浸透し、地方大会とは別のチームに変貌を遂げました。

 大社との9回裏。同点とされ、なおも一死二、三塁というサヨナラの絶体絶命のピンチ。早実・和泉実監督が決断した「内野5人シフト」は驚きました。「何が何でも、1点を防ぐ」という執念を見た。11回裏、最後は力尽きましたが、OBとしても後輩たちが頼もしく見え、誇らしいゲームでした。

高校生が心身ともにたくましくなる場


甲子園とは白球を通じて「友情」が芽生える場でもある[写真=田中慎一郎]


 実は私自身の高校1年夏も、今回のチームと重なる部分がありました。優勝候補・北陽(大阪)との1回戦。試合前のシートノックを見た瞬間、1年生の私は、見たことがない強肩、フットワークの良さにカルチャーショックを受けました。とんでもないことになると、不安だらけだったのですが、当時の上級生がバックアップしてくれたんです。耐えて、耐えて初戦突破(6対0)。そこで、きっかけをつかんだチームは5試合を勝ち上がり、決勝まで進出することができました(横浜との決勝で敗退して準優勝)。

 今でもなぜ、勝ち進めたのか不思議なんですが、和田明監督以下、結束力のある集団であったと思います。1年夏以降、3年夏まで計5回、甲子園に出場させていただきましたが、夏はすべて甲子園で終われたことは幸せなこと。指導者との信頼関係、仲間との絆、対戦した相手校との友情も芽生える場でした。決して突出した技術がなくても、チーム全体で一つの目標に向かえば、大きな力になる。今年のチームからも、感じることができました。

 今夏は先発を含めて2年生以下のメンバーが多く、リーダーシップが抜群だった「二番・遊撃」の宇野真仁朗(3年)が残した「全員で戦う姿勢」を、後輩たちが秋の新チームに受け継いでくれることを期待しています。

 高校3年夏から42年が経過し、私自身も還暦を迎えました。当時と音の響き、雰囲気がまったく変わらないのが阪神甲子園球場です。場内アナウンス、サイレン、観客のリアクションもそのまま。毎年、この真夏の時期になると私自身もワクワクする。時代の流れとともに休養日、タイブレーク、球数制限、クーリングタイム、新基準バットの導入、午前と夕方の二部制など大会の運営方法が変わってきています。高校球児の健康を守るための暑さ対策。こうした変化に対応していくことも、大事なことです。今夏は甲子園球場が誕生して100年。今後もあこがれの「聖地」であり、高校生が心身ともにたくましくなる場であり続けることを、心から願っています。

取材=岡本朋祐
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