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2024夏の甲子園

【甲子園】なぜ、大社・馬庭優太は大会屈指の好投手となったのか 野球人、人間的な4つの魅力

 

まさしく大会の「顔」


快進撃はここから始まった。1回戦で2年連続センバツ準優勝の報徳学園高を1失点完投[3対1]した[写真=田中慎一郎]


【第106回全国高等学校野球選手権大会】

 2024年夏のヒーロー誕生である。

 93年ぶりに8強進出を遂げた大社高(島根)の原動力は左腕・馬庭優太(3年)である。

 大社高は1915年、第1回の地方大会から今夏まで「皆勤出場」している全国15校の一つである。杵築中時代の第3回大会(17年)に初出場を遂げ、2勝を挙げて4強進出。大社中で名乗りを上げた第17回大会(31年)は1勝を挙げて8強進出。大社高として夏5回目の出場となった第43回大会(61年)に1回戦を突破したのが、最後の白星だった。

「目標はベスト8」

 32年ぶりに出場した今夏は、報徳学園高(兵庫)との1回戦で馬庭が1失点完投(3対1)で、63年ぶりの甲子園勝利を挙げた。創成館高(長崎)との2回戦は10回4失点完投で「1大会2勝」は初出場の1917年以来、107年ぶり。そして早実との3回戦もタイブレークを制し、149球を投げ、延長11回を2失点完投した。11回裏には自らサヨナラ打を放った。「ミラクル・大社」に大きく貢献し、まさしく大会の「顔」となっている。

 開幕前は「好投手の一人」であったが、この3試合で一気に「全国区」へと上り詰めた。なぜ、馬庭は大会屈指の好投手となったのか。野球人、そして、人間的な魅力が4つある。

創成館高との2回戦では延長10回タイブレークを制して、107年ぶりの2勝を挙げた[写真=牛島寿人]


 まずは「地元愛」である。

 出雲北陵中出身。高校進学に際して、地元・出雲市内の大社高を選んだ理由はこうである。

「島根の良い空気。地元の大社で、甲子園に行きたいと思った。(別の選択肢は?)片隅にはありました」

 アルプス席は、1回戦から3試合を通じて超満員。スクールカラーの紫に染まっている。常に支えられていることへの感謝を忘れない。

「地元からの応援が一番、響いている。自分たちの大きな力になっている」

仲間との絆


早実との3回戦では11回裏にサヨナラ打を放ち、歓喜の涙を流した。11回、149球完投勝利である[写真=田中慎一郎]


 次に「仲間との絆」である。マウンドは一人ではない。8人の野手、そしてアルプス席で応援してくれる控え部員のサポートもあって投げられている現実を、しっかり受け止める。

「練習の成果を出し、仲間を信じて投げる。最高の仲間を背にして投げるのはうれしい」

 早実との3回戦では1対1の7回表に、中堅手・藤原佑(3年)が中前打を後逸して、打者走者の生還を許す痛恨のエラーを喫した。しかし、馬庭の心は揺るがない。

「誰にでも、ミスはある。失点に絡んでしまいましたが、ここは、自分が最後まで投げ切ることを決めていた。(藤原には)『大丈夫だよ!!』と声をかけました」

 仲間を信頼するからこそ、野球の神様は見てくれている。大社高は土壇場の9回裏にスクイズで追いつき、11回裏に自らのバットで死闘に決着。奇跡は偶然ではなく、常日頃からの積み重ねであり、必然なのである。

 3つめは人間性に付随する「技術」の高さだ。

 ストレートの最速は140キロ。試合でのほとんどは130キロ台中盤である。変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップ。驚くようなボールはないが、独特なテークバックでタイミングが取りづらい。制球力が抜群で内、外とコーナーへ投げ分けることもできる。ピッチングがうまく、相手打者を見て投じるセンスもある。3戦30イニングで4四死球。いつでもストライクが取れるのが強みである。ピンチではギアを上げ、早実・和泉実監督は「球速よりも、強さがある。真っすぐと分かっていながら押し込まれる」と絶賛していた。

強い気持ちを携えて


 最後に投手として最も重要な「気持ち」だ。

 島根の公立勢では1998年夏の浜田高以来の8強進出。当時のエースは和田毅(ソフトバンク)である。レジェンド左腕への「意識」を聞くと、馬庭は間髪を入れずにこう答えた。

「過去を背負いたくない。比べるのは……。今のチームを見ている。このチームでもっと、上を目指す。新しい歴史を作りにきたので」

 8月19日は昨夏の4強・神村学園高(鹿児島)との準々決勝である。「8強」という当初の目標は達成したが、もちろん、さらに上を見据える。気になるのは「球数制限」だ。

 8月11日の報徳学園との1回戦で137球、15日の創成館との2回戦で115球、そして、早実との3回戦で149球を投じた。「1週間で500球」という規定があり、現状は2回戦以降が対象。19日の準々決勝と、勝ち上がれば21日の準決勝までで、合計236球が上限となる。先を見るよりも、まずは、県勢では03年の江の川高(現・石見智翠館高)以来、大社高としては107年ぶりの4強に挑む。

文=岡本朋祐
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