チームに希少な長距離砲

力強いバッティングで広島打線をけん引する末包
広島が8月25日の
阪神戦(マツダ広島)で追い上げ及ばず5対7で敗れ、8月初のカード負け越し。2位・
巨人と1ゲーム差に縮められた。6年ぶりのリーグ優勝に向け、タフな試合が続く。打線のキーマンとなるのがチームに稀少な長距離砲・
末包昇大だ。
昨年は65試合出場で打率.273、11本塁打、27打点をマーク。得点圏打率.361と勝負強さを発揮した。主軸として期待された今年は一軍の春季キャンプでメンバー入りが決まっていたが、1月下旬に左膝の内側半月板を負傷したため離脱。リハビリ、ファームでの実戦を経て一軍に昇格したのは5月8日だった。
末包がクリーンアップに座ることで打線の破壊力が一気に増す。復帰後の1カ月だけでチームトップの5本塁打をマーク。借金1だったチームは白星を積み上げていく。5月27日には誕生日を迎え、28歳初打席となった翌28日の本拠地・
オリックス戦(マツダ広島)で初回に決勝打となる2点右前適時打を放ち、貯金6で首位浮上に貢献した。
このまま上昇気流に乗ると思われたが、故障で再び離脱する事態に。6月22日の
中日戦(バンテリン)で左翼の守備の際に負傷交代。広島市内の病院で検査を受け、左太もも裏の肉離れと診断された。精神的なショックは大きいが、心身ともにタフになった姿で戻ってきた。8月6日に一軍昇格すると、同日の巨人戦(東京ドーム)で7号左越えソロを放つなどマルチ安打で勝利に導いた。その後は26打席無安打と試行錯誤していたが、17日の
ヤクルト戦(神宮)で2本のアーチ、翌18日の同戦で猛打賞と目覚める。
続く20日の巨人戦(東京ドーム)では、初回一死一、二塁で先制の2点適時左越え二塁打を放つと、3回に左前打、さらに4回二死満塁の好機で左翼線へ走者一掃の3点適時二塁打。自己最多タイの1試合5打点を記録した。巨人戦は昨季6本塁打を放ったが、今年も打率.333、2本塁打、9本塁打と相性の良さは健在だ。
他球団の首脳陣は、「長距離砲だけど粗さを感じない。ミート能力が高く、打ち損じが少ないので抑えるのが難しい打者です。直球に強く、変化球に対してタイミングを少しずらされても器用に対応できる。縦の変化に弱い傾向がありますが、少しでも甘く入ったらスタンドに運ばれる。怖いのはケガだけでしょう。シーズンをフルに出たら三冠王を狙える素材だと思います」と警戒を強める。
必死な姿で貫くフルスイング
同学年の
岡本和真(巨人)が智弁学園で高校通算73本塁打を放ち、ドラフト1位で入団した歩みとは対照的に、末包は全国的に無名な存在だった。高松商高では通算11本塁打。東洋大で公式戦出場したのは3年からでレギュラーをつかめなかった。同学年のチームメートは
甲斐野央(
西武)、
梅津晃大(中日)、
上茶谷大河(
DeNA)、
藤井聖(
楽天)、
中川圭太(オリックス)とタレントぞろいの中で目立った存在とは言えず、大阪ガスへ。社会人野球で力をつけた遅咲きの選手だ。
決して器用なタイプではない。ただ、必死な姿でフルスイングを貫く姿は、ファンの心をつかむ魅力がある。熱狂的な広島ファンで知られるお笑い芸人THE GEESE(ザ・ギース)の尾関高文さんは22年12月に週刊ベースボールのコラムで、注目選手の一人に末包を挙げていた。
「秋のキャンプで見ていても、やっぱりみんなの目を引くんですよね。
中村健人選手もそうなんですけど、元気いっぱい!泥だらけになりながら守備練習している姿に、みんなが盛り上がるという。あとは、やっぱり打ったときの飛ばす距離と言ったら、チームで一番ですね。あれほどのパワーがあって、守備も外野だけでなく一塁にも取り組んで。ポジションの問題はあるんですけど、末包さんを使ってほしいなと思います。どこか
新井貴浩監督にも似ているんですよね。ドラフト6位入団で、体格にも恵まれていて。そういう意味でも新井監督の下でのブレークに期待したいです」
ケガで出られなかった悔しさを晴らすためにも、打ち続ける。
写真=BBM