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早大時代に指導した野村徹氏が語る青木宣親「早稲田で身に付けた打撃技術が根底にあった」

 

「打撃練習で、青木の目の前にはネットを囲みました」


青木は早大時代、3年春からレギュラー。東伏見グラウンドで猛練習を重ねた[写真]。3年秋に首位打者を獲得し、4年秋までに、リーグ4連覇に大きく貢献した[写真=BBM]


 ヤクルト青木宣親外野手(42歳)が9月13日、今シーズン限りでの現役引退を発表した。早大時代の4年間、指導に当たった野村徹氏(87歳)が、メッセージを寄せた。

 1週間ほど前に青木本人から連絡がありました。着信を見た瞬間に「もしかしたら」という予感はしましたが……。「よく頑張ったな」。青木には、それだけを言いました。大学入学当時を思えば、よくあそこまでプレーした。そこに、尽きます。早稲田大学野球部の関係者も皆、そう思っていると思います。

 宮崎県立日向高校から、指定校推薦で早稲田大学に入学。高校時代は投手でした。大学で野手に転向し、もともと、打撃には興味があったようです。同学年の野手にはスポーツ推薦入試で入学した鳥谷敬(元阪神ほか)のほか、比嘉寿光(元広島)、由田慎太郎(元オリックス)、1学年下には田中浩康(元ヤクルトほか)、2学年下には武内晋一(元ヤクルト)が在籍していました。公立校出身の青木は入学当時、全国的に無名だったと言っていいでしょう。大学4年間で成長した要因として、周りの選手から刺激を受けたのは、言うまでもありません。

 脚力に優れていましたので、代走と外野の守備要員としてベンチ入り。ただ、2年秋までは、レギュラーをつかむことができませんでした。われわれ野球界の指導者が気をつけてきたことは、野球には9つのポジション、9つの役割があるということ。それぞれの立場に徹して、初めてチームとして機能します。野球選手であるならば皆、ホームランを打ちたいですし、クリーンアップを打ちたいですし、エースになりたい。でも、それではゲームは成り立ちません。

 当初、青木はフリー打撃で、鳥谷らに触発され、右方向に気持ち良く引っ張っていました。それが、チームのためになるのか……。私は打撃ケージの後ろでじっと見ていました。大学卒業後、何とか彼を社会人野球でプレーできるだけの力に、引き上げたかった。

 そこで、私は考えました。『青木商店は一、二番だろう』。今、何をすべきか。どういう役割が求められているか。打撃練習で、青木の目の前にはネットを囲みました。唯一、スペースが開いるのは三遊間だけ。引っ張ることを封印させたのです。私がブルペンで見ていないときは、引っ張っているようでしたけど……(苦笑)。次第にその意味を、理解したようです。体で覚えるまで、青木のヒットゾーンである逆方向へ打つ。当てるのではなくて、左方向へ強い打球をたたく。体の近くまでボールを引き寄せて、バットを出す。そこへ打つためのフォームを作り上げたわけです。

「学生の参考になることは多々ある」


野村徹氏は1999年から2004年まで早大を指揮。青木が在籍した02年春から03年秋まで東京六大学リーグ4連覇へと導いた。現役時代は捕手。1960年秋、逆転優勝した伝説の名勝負である「早慶6連戦」でマスクをかぶった。写真は2003年2月末の沖縄・浦添キャンプ[写真=BBM]


 日々の訓練によって磨かれ、自分の技術にしていきました。一番には田中を据え、青木は二番。走者一塁で、青木には併殺がないですから基本、バントはさせない。クリーンアップには鳥谷、比嘉、武内、六番には由田が控えており、何をしてくるか分からない青木は、相手校からすれば嫌なバッターだったのではないでしょうか。

 日米通算2723安打の軸には、早稲田で身に付けた打撃技術が根底にあったと思われます。学生時代、東伏見グラウンドで懸命に練習していた姿が、鮮明に思い出されます。鳥谷は全体メニュー後、室内練習場での自主練習に熱心でしたが、青木はなぜか、その場で見かけたことがありませんでした。人目につかない場所をみつけ、影でこっそり、汗を流していたそうです。

 向上心が旺盛。ある試合で4打数3安打と結果を残しても、翌日には打撃フォームが変わっていた。私ならば、そのままで行きますがねえ……(苦笑)。青木にその理由を聞けば「打撃内容に、満足していない」と。理想をひたすら追い求めていました。あくなき挑戦。それが、20年以上、プロでプレーし続けてきた一因かと思います。

 今の現役学生にも、青木が歩んできたプロセスを聞かせてやりたいです。スポーツ推薦組に隠れて練習していた下級生時代、怒られ、怒られながらも自身のプレースタイルを確立した過程。学生の参考になることは多々あると思います。今後、さまざまな形で日本の野球界に貢献してほしいです。

文=岡本朋祐
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