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【大学野球】明大・宗山塁が通算100安打 打ち取られた当たりがヒットになる理由

 

良い軌道で出ているバット


リーグ史上34人目の通算100安打の記念球を手にポーズを取る[写真=矢野寿明]


【9月28日】東京六大学リーグ戦
明大3-3慶大(1分)
※プロ併用日。連盟規定により9回打ち切り

 スカウト歴47年のベテランである広島苑田聡彦スカウト顧問は、神宮球場ネット裏の定位置であるシートで驚きの声を上げた。

「カンチャンが1試合で2本出るのも珍しい」

 明大・宗山塁(4年・広陵高)は慶大1回戦の3回表の第2打席で、詰まりながらも右前に落とした。1年春から78試合目、345打席目にしてリーグ戦通算100安打を放った。

 5回表には、左翼線にしぶとく落とす二塁打。相手バッテリーからすれば、手痛い一打だ。なぜ、打ち取った当たりがヒットになるのか。

 苑田スカウト顧問は具体的に語った。

「打ち方が良いからです。インからキレイにバットが出てくるから、打球が失速する(から落ちる)。バットが外から出てくる選手というのは、そうはならんのです」

 試合後、宗山はその理由を明かした。

「良い軌道でバットが出ている」

 今春はアクシデントの連続だった。2月末にオープン戦で死球を受け、右肩甲骨骨折。全治3カ月の診断も驚異的な回復で、開幕に合わせたが、調整不足は否めず、5試合で17打数4安打と結果が出ていなかった。東大、早大の2カード終え、立大との3カード目を控えたオープン戦で右手中指第一関節を骨折。以降、8試合を欠場した。通算98安打で足踏みしていたのである。

100安打の意義


3回表一死走者なしから右前打。これがリーグ史上34人目の通算100安打となった[写真=矢野寿明]


 今秋は第2週の東大1回戦で決勝ソロアーチを放ち、100安打に王手をかけたが、2回戦は無安打。そして、第3週の慶大1回戦で節目に到達した。カンチャン2本の後は、9回表の第5打席で、バットを止めたスイングだったが、打球は左前に落ちた。理想近いスイング軌道だからこそ、生まれたヒットだった。1年春から今秋まで8シーズン、全102安打を見届けてきた明大・田中武宏監督は言う。

「東大戦では良い当たりが取られていたが、今日は1本目、2本目、3本目とも振ればヒット。芯を外したほうがヒットになる(苦笑)。2年時に見ていた打席を思い出した」

 リーグ史上34人目の快挙にも「ゲームの中で一本出て、それが結果的に100本目だった。まだまだ試合は続くので、チームが必要とされる場面で(ヒットを)出していきたい思いが強いです」と淡々と語った。ただ、100安打の意義について問われると、こう語った。

「入学する前から100安打を一つの目標にしていて、打てるかどうかで、良いバッターであるかの一つの指標になる。チームのための一打を大切にしてきました」

 思い出に残る1本。いかにも宗山らしい。

「2年秋、立大2回戦での逆転2ランです。リーグ優勝に貢献できる一打になり、印象に残っています」

 この日は、広島から両親が神宮のネット裏で観戦。父・伸吉さんは「通過点。まだ試合は残っている。チームの勝利につながる一打を打ってほしい」と目を細めた。広陵高野球部OBであり、元野球人の視点は鋭かった。

スカウトから相次ぐ絶賛


 宗山は2024年のドラフトの「超目玉」と言われている。プロ関係者からは「20年に一人の遊撃手」との評価もあり、この日はバットだけでなく、好守備でもスタンドの観衆を魅了した。1年春から多くの試合を視察した広島・苑田スカウト部顧問は「即戦力。獲得した球団は最高です。心配せんでいいですから」と、改めて地元の至宝に惚れ込んだ。他球団のスカウトからも、絶賛の声が相次いだ。

「言葉に出ない。文句なし。素晴らしいの一言です。春はケガで出場できませんでしたが、秋にしっかり照準を合わせてきた。大学球界のトップレベルでの100安打は、4年間出場していないと到達できない数字。技術だけでなく、身体的な強さもある。能力的にいけば、今後、環境が変われば、さらにレベルアップする」(楽天後関昌彦スカウト部長)

「詰まっていても、マグレのヒットではない。バットの出が良いからです。差し込まれても、そこに強引さがない。そこは技術の高さです。(プロで)守備に長けた選手と比べても、そん色ないレベル。打撃はコンタクト能力が高い。毎回、見るたびに再確認できます。1位重複? 揺るぎないですね。あとは、行くか、行かないか……。現有戦力で遊撃手がいるチームでも行きたくなる。来年もいるか? と聞かれれば、いないわけですからね。言うまでもなく、ドラフト1位はスカウトの判断だけでは決まりません。球団、現場の意向も踏まえながら調整していくことになります」(ヤクルト・橿渕聡スカウトグループデスク)

 この日、チームは1点リードの9回裏二死から慶大の四番・清原正吾(4年・慶應義塾高)のリーグ戦初本塁打が飛び出し、3対3の引き分けとなった。宗山は「僅差の展開が続く。すべての大学から勝ち点を取りたい」と前を向いた。2023年春以来のV奪還へ、主将は背番号10の仕事をまっとうするだけである。

文=岡本朋祐
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